かめくん
ある新聞の新刊案内を読み、久しぶりにSFジュブナイルを読んでみたくなった。 そこで、この新刊案内(正確には復刻版)で紹介されていた「かめくん」(北野勇作 著)を入手すべく近くの本屋に行ってみた。 ・・・が、残念ながら在庫無し。 ジュンク堂ならあるだろうと思い、少し足を伸ばした。書店内に設置された機械の検索では3冊ほど在庫があるはずなのに、書棚には見当たらず。店員の話では、昨日売り切れたとのこと。 そんなに人気があるのか・・・? と思うと余計手に入れたくなってきた。 通信販売なら間違いないだろうと思い購入。やっと入手。期待を裏切らない面白さ・・・と言いたいところだが、期待が大きかった分少々期待外れな面もありました。 しかし、決してつまらないということではない。人工知能を持った”かめくん”の、近未来の日常を綴った物語である。 独特のムードを醸し出す文体と相まって、ほのぼのとした、しかしちょっとシリアスな側面も見せる物語。 作者は、少なからず人工知能(AI)の知識を持ち合わせているようだ。 ”かめくん”が考えを巡らす場面では、必ず「かめくんは、そう推論した」という、ちょっと一般的ではない表現を用いている。どうやら”かめくん”の頭脳は推論エンジンをベースに作られているようだ。 ”かめくん”は河川敷の土手を散歩するのが好きだ。(私も好きです。特に天気の良い日は気持ち良い。) ”かめくん”が土手を散歩していた時の出来事。仲間達とサッカーで遊んでいた男の子が、”かめくん”をからかい、ちょっと様子を探るように、”かめくん”に向かってボールをシュートする場面。その描写が面白い。 『かめくんは腹甲の正面でそれを受けた。勢いを殺されたサッカーボールは、かめくんの前にぽてぽてと転がった。 かめくんは静止しているボールにゆっくりと近づいていき、尻尾でぱちんとボールを弾いた。きれいな放物線を描いてボールは川の真ん中へと落ちた。・・・・・・ 唖然としている子供たちに、ぷしゅう、と大きな鼻息を浴びせかけ、かめくんは土手の斜面を登って行った。 「ばかがめ!」 「木星に行っちまえ、ばかがめ!」 』 子供たちの罵声を甲羅に受けつつ、”かめくん”は暮れかかった河川敷を後にしたのだった。 ”かめくん”がいる近未来は戦争中らしいが、ちっとも戦争中らしくない。むしろのんびり、ほんわかしている。このリアリティの無さは、ちょっと「となり町戦争」( 作者:三崎 亜記)にも似ている。作者はあとがきで再三言う。 「かめくんはかめくんであって、かめくん以外の何物でもない」。 かめくんが織りなす世界も、人間の世界も、そこに日常が横たわっている点で、且つそれが変化し続け、不変ではないという点において)何ら変わりはない。と解釈することにした・・・。 |