プロジェクト管理と認知バイアス
プロジェクトを管理するのは(言うまでもなく)人間である。 昨今のAI(人工知能、特に生成AI)の急速な進歩から、プロジェクトの進捗管理や、品質管理、コスト管理などをAIが支援する場面が増えることは容易に想像がつく。 しかし、最終的な判断や意思決定を行うのはプロジェクト管理に携わる人間である。 では、最終的な判断を下す人間が間違いを犯さないか、というとそんなことはない。 そこで、プロジェクトの現場では、間違いを起こさないようにチェックリストを用意したり、二重チェックを行うなどの対策を講じている(ペアプログラミングなども同じであろう)。 しかし、人間が行う認知や判断に際して厄介なのが「認知バイアス」だと思われる。 書籍「思考の穴 わかっていても間違える全人類のための思考法」(アン・ウーキョン:著、花塚恵:訳、ダイヤモンド社)には、認知バイアスに関する詳しい解説がある。 本書には「認知バイアスのほとんどは脳の高度な適応メカニズムの副産物」であり、簡単に制御できるものではない、とある。 簡単に制御できなくとも、そのようなものがある、ということを認識しておくことが重要だ。 特にプロジェクトや組織の管理に携わる人は、人間にはどのような認知バイアスがあるのかを知っておくべきだろう。認知バイアス自体は簡単には制御できなくとも、知っているだけで気付きが得られる場合がありそうだ。 本書には幾種類ものバイアスが例示されているが、ITプロジェクトについてズバリ言及しているのが「計画錯誤」である。 「計画錯誤」とは、プロジェクト計画を作成するときに、完了までに必要な時間や工数の見積もりが甘くなることである。 私たちは時間や工数を見積もる時に、「希望的観測」を持って実施する傾向がある、という戒めである。 これはプロジェクト管理に携わった経験がある人にとっては、そんなに目新しいものではないかもしれない(いや、むしろ「あるある」に属する問題だろう)。 計画錯誤はITプロジェクトに限った話ではない。 本書にはオーストラリアのシドニーオペラハウスの建設が大幅に遅延した(当初計画から10年遅れ)事例などが出ている。 この種の事例(建設プロジェクトやITプロジェクトなど)は数多く存在する。 私たちの身近な出来事では、大阪万博の費用が当初計画から大幅に増え、スケジュールも逼迫していること、などが記憶に新しい。 本書には、計画錯誤の影響を出来るだけ軽減するための策として、「一つのタスクを小タスクに分割すること」が示されている。 私たちは、プロジェクトのスケジュールを作るとき、大工程表と、大工程のタスクを細分化した中工程表や、さらに細分化した小工程表を作成することで、計画錯誤をある程度軽減している。 さらにウォーターフォール型の開発では、要件定義が終わった段階で、後工程のスケジュールや工数を再度見積もることで、計画錯誤を軽減していると言えるだろう。 一方、近年話題になることが多いアジャイル開発では、決められたコストの範囲内でどこまでの要件を取り込めるのかを、サイクルの都度確認することで計画錯誤を軽減している例などがみられるだろう。 プロジェクトで問題が発生したとき、プロジェクト管理に携わるメンバーは、問題の原因を分析して対策を考える。 ①人が因果関係を認識する際のバイアス (本書の第3章) プロジェクト管理とは直接関係しないが、本書には「ネガティブ・ケイパビリティ」に関連する記述がある。 |
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