2017年 2月

システム開発の現場では、多くのフリーソフトが使われるようになった。代表的ものに、MySQLやEclipce、Apacheなどがある。また、パソコンやスマートデバイス向けのフリーソフト(アプリ)も沢山ある。
フリーには2種類がある。一つは「無償」であるという意味のフリー、今一つは「改変や再配布が自由」であるという意味でのフリーである。
また、一口にフリー(自由)といっても、著作権の種類は様々である。(例えばGPL、LGPL、GFDL、BSDライセンスなど)

ソフトウェアの世界と同じく、本の世界でも「無償」で読めるものがある。
青空文庫は、著作権の消滅した本をボランティアの人々が入力・校正した電子書籍である。
本の著作権の保護期間は、著作者が死亡してから50年を経過するまでだから、これを超えたものや、著作者が許諾したものを青空文庫として公開している。
なお、著作権に関しては、その保護期間を70年に延長するという「著作権保護期間延長問題」が存在する。
青空文庫のラインナップは、著作権保護期間の関係から、明治、大正~昭和初期の作品が多い。有名なところでは、夏目漱石、森鴎外、芥川龍之介、太宰治、宮沢賢治、江戸川乱歩などの作品が名を連ねている。
また、鈴木大拙のように、今年になって没後50年を超えた人の著作物が今後加わっていくと思われる。(例えば、鈴木大拙「日本的霊性」は作業中のステータスになっている。他に、没後50年を超える作家に大下 宇陀児、亀井 勝一郎がいる。)

スマートフォンやタブレット端末で青空文庫を読むためのアプリ(ビューアー)が幾つか出ているようだが、私は専らKindle(電子書籍を読むための端末)で読んでいる。
青空文庫には大正時代の作品が多くあり、その当時の風俗や流行が垣間見れて面白い。また、知らない作家や俳優、はたまた飲食業、サービス業の業態なども登場する。
例えば、林芙美子の放浪記を読むと、当時の俳優や作家が、結構な人数登場している。女優では、松井須磨子をはじめ、英百合子、夏川静江などの名前がみられる。
大正三美人の一人、白蓮も伊藤白蓮の名前で出ている(この時はまだ、伊藤伝右衛門の妻であったからだろう、柳原ではなく伊藤の姓である)。
作家の方では、辻潤や相馬泰三、南部修太朗などの名前がみられる。辻潤に関しては、スチルネルの自我経のみならず、「辻潤の細君だというこじまきよ(小島キヨ)さんに逢う」との記載もある。

葛西善蔵は名前だけは聞いたことがあるが読んだことはなかった。放浪記のなかには、「善蔵の『子を連れて』だの、『労働者セイリョフ』・・・・云々」とあり、青空文庫を調べてみると、葛西善蔵の作品には「子を連れて」のほか、「蠢く者(うごめくもの)」、「椎の若葉」などが公開されている。
葛西善蔵に限らず、この時代の小説には赤貧の生活を描いた私小説(および私小説に近いもの)が多い。

「子を連れて」は、家賃を滞納したために正に借家を追い出されようとしている、父と二人の子供が描かれている。彼の細君は次女を連れて故郷に金策に走っているのだが、その後はとんと音沙汰がない。
父親である彼は、毎日のように友人に借金をねだり、その日の食い扶持をまかなっている。しかし、(当然のことながら)お金を貸してくれる友人はだんだんと彼から離れていくようになり、最後の頼みの綱であるKも彼を避けるように避暑地にいってしまう。
このようなギリギリの状態にあっても酒だけは手放せない。
「酒のほかには、今の彼に元気をつけてくれる何物もないようなきがされた」
何ともやりきれない状況の中、唯一この小説の救いは二人の子供(兄と妹)である。
家を出た彼と子供達は、停留所近くのバーに入る。子供には寿司をあてがい、彼は酒を飲む。
寿司を平らげた長男が「お父さん、僕エビフライ食べようかな」という。
暫くしてまた「お父さん、僕エダマメを食べようかな」という。
そのうち腹を満たした子供等は外へ出て鬼ごっこを始める。「長女は時々扉のガラスに顔をつけて父の様子を視に来た。そして彼の飲んでいるのを見て安心して、また笑いながら兄と遊んでいた」
このあたりの描写が微笑ましく、また面白い。

しかし、「蠢く者」では主人公の生活はさらに酷い状況になっていて、そこにはもうほとんど救いがない。
彼は亡くなった父と同じく、脚気で散歩もままならない状態である。小説に描かれている主人公のありさまは、まるで老人のように見えるが、実はまだ38歳の若さである。(現在とは、食糧事情や経済事情、医療技術が異なるから単純な年齢比較はできないが・・・)
そしてどういういきさつかは分からないが、「おせい」という25歳の女性と一緒に下宿生活を営んでいる。さらに、彼の細君と子供等は遠い故郷で暮らしているようなのだ。
読み進めるうちに、彼がおせいと同棲するようになった経緯や、細君との関係が少しづつ明らかになっていく。
彼とおせいの間は相当険悪になっている。彼はおせいのことを非情に面倒に思っており、何とか家から追い出そうとする。しかし、おせいの方は一向に家から出ていこうとしない。
彼は酒に酔って毎晩のようにおせいと喧嘩をし、罵詈雑言を浴びせる。ある時、二人の喧嘩はついに取っ組み合いの殴り合いにまで発展する。
おせいは口からたらたらと血を流しながら云う。
「こん畜生! お前はあたいのあれを忘れたね。あたいのあの、大事なあのことを、忘れてゐるんだわ、お前さんに見せこそしなかったが、もう形がちゃんと出来てゐたんだよ。丁度セルロイドのキューピーさん見たいに、・・・・・」
出口の見えない日が続くなか、彼は(脚気のリハビリであろうか)日課としている散歩に出かけのであった。

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