3Dプリンターとデスクトップ・ものづくり
家電量販店が販売を開始して以来、3Dプリンターがかなりの盛り上がりを見せているようだ。 クリス・アンダーソン著「MAKERS」が予想したように、モノづくりのデジタル化が進み、デスクトップ・パブリッシングと同じことがモノづくりの世界でも起こりはじめ、モノづくりが益々身近なものになってきている。 このように書くと、個人のデスクトップ環境で、今すぐいろいろなモノが作れるのかと思ってしまうが、現実はまだそこまでには至っていないようだ。 例えば、原雄司著「3Dプリンター導入&制作 完全活用ガイド」などを読むと、現在の到達点がおおよそわかる。 (以下、3Dプリンターに関わる技術面の記載はこの書籍を参考にしています) いまいまのレベルは、ちょうどパーソナルコンピューターが職場に広まり始めた初期の頃と同程度ではないだろうか。 PCが職場に広まり始めた当初は、まだGUIはなかった。キーボードからコマンドを打ち込んでアプリケーションを起動していた。そのアプリケーションもテキスト主体のワープロや表計算ソフトくらいしかなく、図形や絵を作成するなどは至難の業であった。 その後のPCのデスクトップ環境の急速な進歩を考えると、3Dプリンター(およびそれを取り巻く技術)も今後急速に進歩する可能性が高いと思われる。 現状3Dプリンターだけが騒がれているが、これだけではモノづくりはできない。 最低限設計図面(3Dデータ)が必要になり、この3Dデータを作成するためのCAD(3次元CAD)やCGソフトが必要になる。 また、3Dプリンターの入力はSTLファイル形式のインタフェースが一般的なので、CADデータからSTL形式への変換や、STLデータの修正ソフトなども必要になってくる。 さらに、3DスキャナーやCNC装置(切削加工機)などが必要になるケースもある。 先の「3Dプリンター導入&制作 完全活用ガイド」を読む限りでは、3Dデータの作成とSTLファイルの修正などの作業は、初心者にはかなりハードルが高いように見える。 もっとも、すでに出来上がっている(出来合いの)3Dモデルのデータを、共有サイト等からダウンロードして使う場合はこの限りではない。 3Dプリンターのブームは実は今回(2013年頃~)が最初ではない。 第1次ブームは2000年前後で、ラピッドプロトタイピングを目的としたRP装置の登場がその特徴である。 第2次ブームは2007年頃、3Dスキャナーで読み取ったものを3Dプリンターで出力する「3Dコピー」が一時ブームになった。 そして、今回が3回目のブームである。 今回のブームのきっかけは、クリス・アンダーソンの「MAKERS」と、オバマ大統領が3Dプリンターの普及を目指して打ち出した各種政策である。 なお、3Dプリンターの特許を世界で初めて申請したのは日本人技術者だそうである。 今回のブームで3Dプリンターと呼ばれているものは、一般的なオフィスや家庭でも使える、比較的コンパクトな「積層造形装置」のことである。 「積層造形装置」には大きく8つの方式がある。 ①光造形方式、②粉末焼結積層造形方式、③インクジェット方式、④樹脂溶解積層方式、⑤石膏パウダー方式、⑥シート成形方式、⑦フィルム転写イメージ積層方式、⑧金属光造形複合加工方式、 である。 現在家電量販店などが取り扱っている、個人向け低価格の3Dプリンターは、樹脂溶解積層方式を採用している。 樹脂溶解積層方式は、他の方式と比べると表面の仕上がりが粗く、積層の縞模様が目立つ傾向にあることが欠点である。 設計図面(3Dモデル)にもいくつかの種類がある。 主要なモデルは、①ワイヤーフレームモデル、②ポリゴンメッシュモデル、③サーフェスモデル、④ソリッドモデル、⑤ボクセルモデル、 の5つである。 そして3DCGソフトや3DCADソフトにもいくつかの製品があり、製品によって扱えるモデルが異なってくる。 最終的に3Dプリンターに出力するためには、ポリゴンメッシュのSTLデータを作る必要があるが、サーフェスモデルやソリッドモデルからポリゴンメッシュモデルにデータ変換する場合、互換性の問題が存在する。 すなわち、異なるモデル間でのデータ変換には制約があるということである。さらに、データ変換ができたとしても、変換後のデータが不完全な場合にはそれを修復するソフトが必要になる。 このような異なるデータ形式の間での互換性の問題は、コンピューターシステムに関わるいろいろな分野で起きてきたことと同質と思われる。 デファクト・スタンダードが確立するまでは互換性に絡む問題がいろいろと出てきそうに見える。 さて、モノのデジタル化の進展は良いことばかりではない。 設計図面(3Dデータ)と3Dスキャナー、3Dプリンターなど、モノづくりの一連の工程がデジタルになることで複製が容易になり、いわゆる違法コピーが広がるリスクが高まる。 文字情報や映像情報のデジタル化が進み、簡単にコピーができるようになったのと同じことが、実体のあるモノの世界でも起きるということである。 これは取りも直さず、製造業の世界で知的財産権が侵害されるリスクが高まるということを意味している。 デジタル化とオープン化の進展は、良い面ばかりが報道されがちであるが、功罪あわせ持つことに留意すべきだろう。 |