2016年 10月 1日

AI(人工知能)が人間から知的労働(の機会/職場)を奪う、といった類いの記事を最近よく目にする。
しかし、この種の話は今に始まったことではない。
古くは「荘子」の天地編に、”機械心とはねつるべ”の話がある。(以下、秋月龍珉「鈴木大拙」より)
ひとりの百姓がいた。自分の手で井戸を掘った。
そして、彼の田圃の灌漑はこの井戸水で用を足していたのである。ところが、彼の水の汲み方はまったく原始的なもので、自分でトンネルを掘って井戸に通じ、自らカメを抱えて行ってこれに水を満たして、ただコツコツと畑に水を運ぶという、実に骨の折れるやり方をした。
ところが、ひとりの旅人が通りかかって、これを見ていうには、「おまえさん、なぜ”はねつるべ”を使わないのかね。
これはまったく仕事の手間を省くにもってこいにできているし、それにいちいちカメなどで水を運んでいるよりどれだけ能率が上がるかわからぬほどだ」と。
すると百姓のいうには、「わしは”はねつるべ”が仕事の手間を省くことはよく承知しているが、それだからこそ、わしはなおのこと、はねつるべを使わぬのだ。
わしの気にくわぬのは、こんな便利なものを使い慣れてくると、人間の心までが機械心になってしまうだろう。人間の心が機械心となってしまえば、ついに人間が不精になり、楽なことばかり考えたくなるからさ」。
この話に関して鈴木大拙氏は次のように述べている。
「わしの考えでは、荘子はただ機械に反対するのじゃなくて、人間には”創造力”というか、新たなものを自分から、やろう、つくろうという気があるのですね。そいつが大事なんだ。機械に頼ろうとすると、それに押さえられてしまって、機械に制せられる。そうすれば、自分の持っている創造力というものが、なにか押さえられて、物足りないようになってくる。そこを荘子は見ておったんだろう、と思う。」

良く知られているようにコンピューターは”はねつるべ”と同じく、仕事の手間を省き、効率を上げる目的で利用されてきた。例えば、会社の経理の仕事。
昔は紙の帳簿類とそろばんが主なツール(道具)であった。お金の入出金や商品売買があると、都度伝票を記載して、日締めや月締めで帳簿類に転記する。そして帳簿の金額の計算にはそろばんが使われていた。
計算機(特にパソコン)が普及してからツールは会計ソフトに変わった。今や小さな会社でもパソコンで利用できる会計ソフトを使っている。
会計ソフトであれば、記帳漏れがあった場合の修正や、仕分けの訂正、金額の訂正などが簡単にできる。帳簿間の整合性も自動的にチェックしてくれる。
紙の帳簿を使う場合と比べ格段に便利になったし、仕事の効率も上がった。
大企業では連結会計を導入しているところが多いと思うが、これなど計算機がなければ対応は無理だと思われる。
製造業、小売業、通信業、・・・あらゆる産業の基幹業務がコンピュータ化されていった。基幹システムとそれ以外の情報系システムの導入が進むことで、企業の業務の効率化や省人化が進んだが、これによって人間の仕事がなくなったわけではない。
大局的には、人間は単純作業から解放され、より上流工程の知的作業を担当するようになったと考えられる。
物流や建設、介護、医療など、まだまだ人手に頼る仕事は多く残っているが、ロボットやドローン、自動運転の導入などで、このような業種でも次第に効率化、省人化が進んでいくだろう。

さて、人間の仕事を奪うのはコンピューターやAIに限らない。
イノベーションは、環境の変化を引き起こし、人間の労働形態を変える場合がある。一つの例が、「オンデマンドエコノミー/ギグエコノミー」である。
具体的なサービスの一つに配車サービスのウーバー(UBER)がある。ウーバーではまず客がスマホのアプリで、近くを走行中のドライバーを探す。ドライバーはウーバーと提携している一般の人である。依頼を受けたドライバーは客を迎えに行き、客を乗せて目的地まで運ぶ。
このビジネスモデルでは、ドライバーは需要がある時だけ対価を得られる。タクシーなどと比べて、人件費コストが掛からない(タクシーの場合は人件費コストが固定費化する)、利用者にとって価格メリットがあるビジネスモデルである。
しかし、これを働き手の視点からみると、需要のある時だけ仕事と、それに見合う対価が得られる、いわば断続的パートタイマーである。(今までのパートタイム労働は、短時間であれ時間的には継続していた)
タクシー会社に正社員として雇われるよりも過酷な条件だといえる。この様態はかつて専業主婦がパートで働いていたものと同じだ。
専業主婦であるがゆえに賃金は低く抑えられていた。それが一般化されて広がり、やがて正規雇用と非正規雇用との格差の問題に発展した。
オンデマンドエコノミーはあらたな労働問題を引き起こす可能性がある。

コンピューターに限らず、今の時代は技術の進歩や環境の変化が著しい。
これに対応していくためには、機械心に陥らず、人間が創造的に活躍できる労働の場はどこか、を不断に考えていく、想像力と創造力が不可欠だといえるだろう。

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