2019年 1月 24日

塚越健司「ハクティビズムとは何か」は、ハッカー、ないしはハクティビズムの歴史と社会学的切り口からの考察である。
「ハクティビズム」とは、ハッカーたちの「ハック」と積極行動主義ないし政治的行動主義を意味する「アクティビズム」を掛け合わせた造語である。この言葉は1995年頃から使われ始めたそうだ。ハクティビズムとは何か
著者はハクティビズムを、「明確な政治目的をもって情報技術を用いること、つまりハックによって新しい制度を構築し、現実の問題を解消し、あるいはハックを既存制度への抗議として用いることを指す概念」と定義している。
なお、著者はハッカーとクラッカーを区別している。
クラックは、他者のコンピュータに悪意を持って侵入し、内容の改ざんや破壊を行うことである。一方、ハッカーは正義感や知的探求のためにハックする。

(本書によれば)ハクティビズム研究者のアレクサンドラ・サミュエルは、ハクティビズムをその内容から3つに分類している。
①ポリティカルコーディング
②ポリティカルクラッキング
③パフォーマティブハクティビズム

80年代から続く伝統的なハクティビズムは、①のポリティカルコーディングだそうだ。これは、魅力的なツールを製作・使用することで、実際の社会に影響を与えるものである。著者は、この代表例としてウィキリークスをあげている。
ウィキリークスは、リーク情報提供者の身元を秘匿するツールを開発して、社会に「潜在的暴露可能性」を生じさせた、とする。

②のポリティカルクラッキングは、アウトロー的性格を有した個人主義的、あるいは匿名的な活動であり、それはしばしば社会秩序を考慮せず、違法行為を含んだ活動によって政治的な主張をするものである。

③のパフォーマティブハクティビズムは、暴力を伴うことのない、政治的にリベラルな考えを持ったアーティスト志向の活動である。ウェブサイトのパロディ化や反グローバリゼーション運動に関わるという。

著者がハクティビズムの具体例として取り上げているのは、主にウィキリークスとアノニマスである。
ウィキリークスに関する論考は納得感があるが、アノニマスについては今ひとつピンとこない。これはアノニマスが、不特定多数のユーザの緩やかなつながりであり、さらにその集団のなかには幾つかの派閥があるということが関係しているのだろう。
著者も「リーダーが存在せず、活動内容も思想も多様なアノニマスを、果たして組織と呼ぶことができるのか」と疑問を呈している。この集団にあるのは「情報の自由を守る」という抽象的な大義と、有名なガイ・フォークスの仮面である。今ひとつの特徴は政治的な主張がそれほど明確ではないということではなかろうか。(不特定多数の集団であればそうならざるを得ないように思う)

私がアノニマスに関する本書の論考から連想したのは日本におけるハロウィン行事である。
日本のハロウィンでは、多くの仮装した若者が渋谷に集まり、一部の人たちは暴走して犯罪行為を犯すことすらある。2018年のハロウィンでは、一部の人たちが軽トラックを横転させて騒いでいる様子がメディアで報じられて話題になった。(これは器物損壊という犯罪行為である)
日本のハロウィンは、敬虔なクリスチャンでもない人たちが仮装を楽しむために集まっている(全部ではないと思うが)。特に渋谷の集会では、リーダー不在の多種多様な人たちの集団が形成されている。
そこにはアノニマスにみられる「キャラクターが生みだすゲーミフィケーション」の要素がみてとれる。さらに、「政治的な意識というよりは、まさに盛り上がりのネタとして活動に参加している」という点も共通している。また、「その活動によって逮捕されるものにはティーンエイジャーが多い」という点も似ているかもしれない。

ハロウィンはリアルの場であるのに対して、アノニマスはサイバー空間という違いがある、と思う人がいるかもしれない。しかし、アノニマスもリアルの場で活動することがある。
日本では2012年にアノニマスがOpACSと題した活動を行っている。本書によれば、OpACSは、「違法ダウンロードの刑罰化」とそれに伴う「違法行為の監視」が、人々の情報の自由とプライバシーを侵害するとして、渋谷周辺の清掃活動を行うものであった。
この活動目的もあまり政治的とは思えない。情報の自由と著作権(著作者の利益)との問題にどう対処しようとしているのか、その主張が明らかでないし、なぜ清掃活動なのかも良く分からない。
これに関連するのが「漫画の違法アップロードサイト」に係る事件だろう。
日経新聞によると、2018年4月、政府が悪質な海賊版(漫画を違法にアップロードして閲覧可能にしたサイト)へのネット接続を遮断(ブロッキング)するよう、NTTドコモなどインターネット接続会社に協力を呼びかけた。
この政府の対応について、強制遮断は「通信の秘密」を犯す憲法違反の措置である、という批判があがる一方、海賊版の犠牲者である出版社は「このまま海賊版サイトの横行を許せば、コンテンツに対価を支払う習慣が失われ、日本のコンテンツ産業の弱体化を招き、ひいては日本の文化力の低下につながる」と主張している。(以上 日経新聞の記事より)
漫画の違法アップロードは著作権の侵害であるが、一方でこれとは正反対の動きもある。
青空文庫は主に著作権の保護期間が終了したコンテンツを閲覧可能にしているが、保護期間内であっても作者自らがコンテンツを提供・公開している作品がある。これはソフトウェア業界のフリーソフトにも似ていて興味深い。
そもそも著作者の死後数十年も経つと多くの著書は再販されなくなるのが現状である(再版されるのは僅か数パーセントだという記事もあった)。さらに著作権の相続関係が分からなくなるものもあるだろう。
従って、著者自らが作品を公開することで、閲覧される期間が長くなることが考えられる。もっとも、青空文庫なので著者には著作権料が入らないから金銭上のメリットはない。作品を読んでくれる読者が長い期間を通じて存続することがメリットであろう。
なお、著作権保護期間は、2018年12月に著作権法が改正され、保護期間が50年から70年に延長されている。

話をハクティビズムに戻すと、ハクティビズムのそもそもの定義に「明確な政治目的をもって」というのがある。一方で、本書で紹介されているアノニマスなどの活動をみると政治性は稀薄である。
この原因の一つにイデオロギーの不在があると感じる。イデオロギー不在の状況では、アノニマスなどの活動をハクティビズムという概念で括ろうとすること自体に無理があり、むしろ、サイバー空間上のスパイ活動やテロ行為、犯罪行為など、悪意を持ったクラックだけが目立つようになってきていると感じる。

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