2020年 7月

「サイバーアンダーグラウンド ~ネットの闇に巣喰う人々~」(吉野次郎、日経BP社)には、普段のニュースではあまりお目にかからない、裏社会に巣食う組織とそこで行われている犯罪(あるいは犯罪すれすれの事件)が描かれている。サイバーアンダーグラウンド
本書に登場するのは未成年ハッカーや中国の「やらせレビュー」組織、振り込め詐欺の組織、など多彩だ。さらに、英国のスパイや監視社会の現状などが語られている。
ネット犯罪で特筆すべきは、犯罪に手を染める人たちの低年齢化である。2001年以降(本書によればネット犯罪の第二期以降)、検挙される人たちのなかに10代の若者が増えているという。
特に2011年以降(本書によればネット犯罪の第三期以降)はさらに低年齢化が進み、10代前半にまで拡がっている。
本書に登場する若者は、16歳の時にある企業に対して「サプライチェーン攻撃」を仕掛けている。標的企業のシステムにランサムウェアを拡散させ、仮想通貨での支払いを要求している。
重大な事件だが、その動機はネットでつながっている人たちから称賛されたい、という幼稚な承認欲求である。若者が犯罪に手を染める背景には、若者のネット依存、ネット上で容易に入手できるツール(ハッキングを行うためのツールやホスティングサービス)、そして安易な動機(ハッキングの成果をネットに投稿して称賛を得たいという欲求)があるようだ。
もちろんネット依存がすぐに犯罪に結びつく訳ではないが、犯罪を誘発するような環境が存在しているということが問題である。
ネット犯罪を犯す若者には、ネットの世界以外に友達がいない、家族や社会から切り離された状態にある、などの特徴があるという。 

本書には振り込め詐欺やライブチャット業界の実情が描かれている。これらに共通しているのは、見事な分業体制(エコシステム)が構築されていることである。
表のニュースでは、振り込め詐欺に関して、かけ子や出し子が捕まったという類のことが度々報じられる。しかし、これらのかけ子だとか出し子だとかは末端の構成員で、トカゲの尻尾切りの尻尾の部分である。
振り込め詐欺のトップにいるのは金主と呼ばれる出資者である。
この金主の下に、番頭やハコ長、さらにその配下にかけ子や出し子などが配される構造だという。そして末端の要員を捕まえてもなかなか上層部までは辿れない仕組みになっているようだ。
結局、金主はお金を出資するだけで、自らは手を汚さずに利益を得ている。まるでベンチャー企業に資金を提供するベンチャーキャピタルみたいだ。
この種のネット詐欺の勢いが衰えないのは、このような摘発逃れの仕組みが出来上がっているからだ。

監視社会というと(私は)中国を思い浮かべるが、日本も少しずつその環境が整いつつある。
街や道路、商業施設などに設置されている監視カメラ、そして最近はドライブレコーダーなどが犯罪防止や犯人の追跡に使われている。
本書には千葉県市川市にある商業施設の事例が出ている。この商業施設では万引きや盗撮などの犯罪を防止するため、あるいは犯人を捕まえるために監視カメラを使っている。
最初に万引き犯やその疑いが濃い人物の顔画像をシステムに登録する。 システムに登録している不審者の顔画像は約400名にのぼる。
次に監視カメラから来店客の顔画像を取得して、登録済みの顔画像と照合する。顔画像の照合に使われているのは顔認識システムである。
ここで使われているのは、AI(人工知能)の画像認識の技術であろう。別の書籍で読んだのだが、顔画像の認識精度は、いまやマスクをしていても認識できるレベルに達しているそうだ。
この万引き防止システムには、警察からの依頼で指名手配犯の顔画像を登録することもあるそうだ。
このような仕組みは、顔画像という個人情報を扱っていることから消費者からのクレームに繋がりかねない。
万引き防止システムに関しては、日経クロステックに「渋谷書店万引対策共同プロジェクト」の記事が出ている(2019年7月3日)。
このプロジェクトには大手三書店の店舗と、流通業社、警備会社などが参加している。このプロジェクトが先の市川市の商業施設と異なるのは、顔画像を関係者(各書店の間)で共有している点であろう。
日経クロステック の記事によれば
「顔画像や特徴量などのデータは個人情報保護法が定める個人データに当たり、組織を越えた共有には法的なハードルがある」が、
「個人情報保護法第23条第5項第3号が規定する「共同利用」の枠組みを採用することで法的な問題をクリアしたと主張するとしている」そうだ。
今のところこの種のシステムは万引きや盗撮などの犯罪を対象としており、どこかの国のように思想犯(政府にとって不都合な思想)を対象にしているわけではなさそうだが、ツールも使い方次第だと考えると少し不気味だ。

 

 

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