「国運の分岐点 ~中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか~」(デービッド・アトキンソン:著、講談社α新書)は、人口減少と高齢化が急激に進む日本の課題と、この課題を克服するために、今後日本が採るべき政策の「新しいグランドデザイン」を提示している。
現在、および近い将来にわたる日本の問題点は、
・人口減少:
ある推計では、2060年までに生産年齢人口が2015年と比較して3,264万人減少(率にして42.5%減少)するという。3,264万人という数字はイギリスの就業人口に匹敵するというから、その変化はすさまじい。
・労働人口が減る一方、高齢化が進むことで社会保障費用が増加していく。
・経済が低迷していて長いトンネルから抜け出せないでいる。先進国のなかで唯一経済成長していない。デフレから脱却できない。
・GDPに対する借金を世界一の規模で膨らませている。
である。
著者はこのような日本が抱えている問題の原因は、中小企業(および政府の中小企業政策)にあると指摘している。
これは私たち中小企業診断士にとっても驚くべき指摘である。私を含め多くの人は、「中小企業が日本経済を下支えしている、あるいは日本経済の原動力である」と考えているが、これは思い込み、ないしは神話だと著者は言う。
著者は、日本の経済が低迷してデフレから脱却できない原因だとか、日本の中小企業の問題点などを論理的に解き明かしている。
例えば、経済低迷とデフレが続くロジックを次のように展開している。
①人口が減少する
②消費が減少する(国内需要の減少)
③価格競争に陥り、商品・サービスの価格が低下する
④価格低下に対処するために労働者の賃金が低下する
⑤②に戻る(賃金が上がらないから消費が増えない)
このループ構造から脱却できないでいるから経済が低迷しデフレから脱却できない、というシンプルな論理である。
では、このループから抜け出すためにはどうすれば良いか? 著者は端的に賃金をあげること、そのために最低賃金を継続的に上げていくことが必要だと説く。賃金をあげることで、生産性も向上する。
今の日本は、消費(主に個人消費)を喚起するために量的緩和などの金融政策を打っているが、人口減少社会では金融政策だけでは消費を喚起できない(と著者はいう)。
金融政策や経済政策が間違いを犯すのは、既存の経済学が人口減少を想定していないからだ。
日本は他の先進国に比べて中小企業の数が多すぎる。これが問題の本質である。
中小企業数の増加は、人口が増加している局面では中小企業が雇用の受け皿となるメリットがあるが、人口減少社会では中小企業の生産性の低さというデメリットが浮き彫りになる。
著者が「中小企業の数が多すぎるときの問題点」として挙げているのは、ズバリ「規模の経済」が追及できない点である。規模の経済を追求できないから生産性が上がらない。
そして中小企業の数が多い原因の一つに日本の中小企業政策があると指摘している。中小企業は税制面で優遇されているし、その他の中小企業支援策も整備されている。これらの「中小企業護送船団方式」の弊害がいま出ている。(1963年以降の中小企業優遇政策は、1999年に自立支援型に舵を切っている)
上記の日本が抱えている問題点への対処方法もシンプルである。
最低賃金の引き上げ(年率5%程度の引き上げ)と、中小企業の統廃合である。
以上が本書の大まかな論点であるが、以下私の感想を記す。
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