| 1.画面の高度化企業の基幹業務などの開発では、依然としてウォーターフォール型で開発する場合が多い。しかしながら、こと画面設計に関しては、アジャイル的な発想が必要になってきている。
 もともと、ウォーターフォール型の開発であっても、画面設計についてはモックアップやプロトタイピング手法を採り入れた方が仕様のブレが少ない、ということが言われていたが、最近はその必要性がさらに高まっている。
 その理由は、画面が高度化してきたことと、スマートフォンやタブレット端末などのスマート・デバイスが企業の業務でも使われるようになってきたためである。
 最近の画面開発では、HTML5やCSS3などの新しい技術が使われるようになり、多彩な画面表示や、画面入力をサポートする機能が比較的簡単に実現できるようになってきた。
 また、スマート・デバイスでは、タップやスワイプ、ピンチなど、従来のPCとは異なる直感的な操作が可能になっている。
 このように画面表示や画面操作で様々なことが可能になったことから、エンドユーザーが事前に要求を提示することは困難になってきている。
 つまり、エンドユーザにとっても、実際に端末や画面を使ってみて、初めて顕在化する要求が増えたのである。
 これは一つの画面の表示や操作だけでなく、業務を支援する一連の画面遷移のあり方についても当てはまる。
 このため、要求をきっちりと定義してから開発する手法よりも、要求を引き出しながら実装を繰り返す手法の方が、ユーザーの満足度を高めることができ、開発後の手戻りも少なくできると考えられる。
 2.ユーザビリティ、ユーザエクスペリエンス画面品質については、従来からユーザビリティという言葉が使われてきたが、最近はこれよりも広い概念を表すユーザエクスペリエンスという言葉が使われるようになってきた。そのそも、ソフトウェアの品質について、ISO/IEC 9126では、
 機能性、移植性、保守性、信頼性、使用性、効率性
 という特性が定義されている。
 このうちの使用性に該当するのがユーザビリティである。
 使用性については、先のISO/IEC 9126では、さらに5つの副特性が定義されている。理解性、習得性、運用性、魅力性、使用性標準適合性 の5つである。
 もう少し分かりやすい言葉で言い表すなら、画面の使用方法や操作方法が分かり易いこと、使用方法や操作方法を習得しやすいこと、操作が簡単なこと、作業の進み具合が分かること、画面設計ガイドラインなどに則っていること、である。
 画面設計ガイドラインとしては、例えば「iOSヒューマン・インターフェイス・ガイドライン」などがある。
 3.業務システムと一般ユーザー向けサービスの違いユーザビリティやユーザエクスペリエンスに関して、業務システムの開発と、一般ユーザ向けサービスの開発を比べると、後者の方がよりシビアであることは想像に難くない。一般ユーザ向けサービスでは、ユーザビリティが低いとユーザーは二度とそのサービスを使わないであろうから、事業収入に直接的に影響する。
 業務システム開発でもユーザビリティは当然考慮されるのだが、機能性や信頼性、性能の方がより重視される傾向にある。少なくとも今まではそうであった。
 業務システムの画面設計では、使用性よりも、項目の属性や桁数の定義、項目間の相関チェックや導出ルールなど、ビジネス・ルールに相当する部分の正確性が重視されてきた。
 しかしながら、先に記載したように、画面が高度化し、スマートデバイスが業務システムでも使用されるようになったことから、従来よりもユーザビリティの重要性が増しているのである。
 このような変化に対して、業務システムを開発してきたSIベンダーの取り組みは、まだ十分とは言い難い。業務システムの画面設計でも、最近は、デザイン部門を参画させたり、プロジェクトの特性に合わせた画面設計ガイドラインを準備するなどの対応が進んでいるが、一般ユーザ向けサービスの開発と比較すると、まだまだ改善の余地があるように思われる。
 4.一般ユーザー向けWebサービスの画面設計一般ユーザー向けWebサービスの開発や、そのサービスで使用する画面の設計・開発事例は、例えば、「WEB+DB PRESS Vol.77」などに紹介されている。この事例に記載されている、設計手法やUIデザイン技術は、業務システムの開発でも参考になる点があるように思う。
 例えば、「モノクロでモックアップを作る」というのがある。
 モノクロだと5階調程度しか色による情報の重みづけをコントロールできないので、余計な装飾に頼らないシンプルな骨格だけをあぶりだせるそうである。
 最初の動くプロトタイプを作るための下準備として作成し、開発メンバー以外からもフィードバックを貰うのが良いそうだ。
 事例では触れられていないが、モノクロでのデザインは、色弱者に配慮したデザインを検討するうえでも有効かと思われる。
 また、プロファイリングもよく使われる手法である。もともとはマーケティングで、ターゲット顧客の属性を明確にするために使われる手法である。
 業務システムでは、システムを使うユーザは比較的限定されているため、プロファイリングの必要性は少ないかもしれない。
 しかし、アルバイトやパートなど、業務やシステムにそれほど精通していない人がシステムを使用するケースも考えられる。
 どのような属性の人がシステムを使う可能性があるのか、常に意識して設計を進めることは重要であり、このためにもプロファイリングを行い、開発関係者間で共有することは無駄ではない。
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