昭和26年頃の日用新語
「木もれ陽の街で」の紹介で、舞台は昭和26年、27年の荻窪と書いたところであるが、当時の新語(主に和製英語や外国語の類)のちょっとした辞書を見つけた。 今とはニュアンスの異なる用語解説や、戦後の雰囲気が感じられる説明など、なかなかおもしろい。 言葉は時代や世相を反映するとはよく言ったものだ。 |
アヴェックフランス語では単に「・・・・と共に」という意味にすぎないが、日本ではアヴェックといえば、親密な関係にある男女2人連れのことを意味する。戦後、男女交際が公然認められるに至った気運に乗じアヴェック風景が多くなったことは当然。 |
アップ・トゥ・デイト最新のとか現代風のという意味。時代遅れの反対。天皇を人間として扱うこと、婦人の権利を認めることなどは「アップ・トゥ・デイトな態度」という。 |
アブノーマル異常な、変態的な、という意味。ノーマル(正常)の反対。およそ常軌を逸した行為、常態からハミ出たことがアブノーマル。桜が咲く季節に雪が降るのもアブノーマルな現象。犯罪でも戦後はアブノーマルなものが多く、小平事件、帝銀事件をはじめ、集団暴行事件などいずれもアブノーマルな要素が濃い。ストリップ・ショーなどに人気が集まるのも、大衆の趣味がアブノーマルに傾いている証拠。 |
イエス・マン何事もハイ、ハイと応諾する人。自尊心なく覇気なく、いちいち上役の命令に盲従する人。現在は占領軍当局の指令を鵜呑みにする政府の役人などにこの言葉が浴びせられている。 |
エキゾティック外国趣味の、異国情緒の、という意。人間とかく身近なものより、山の彼方、海の彼方の空遠きところの風物にあこがれるのが人情とみえ、アメリカ人はキモノを見てエキゾティックな気分にひたり、日本人は放出物資の横文字に随喜する。歌劇「蝶々夫人」はイタリー人プッチーニの東洋に対するエキゾティック趣味のあらわれと見ることもできる。 |
オオ・ミステーク日大事件の山際が逮捕されるとき、2世を気取る彼が最初に発した言葉。これは「我あやまてり」という意味ではなく、恐らく逮捕に向かった警官に対して「人ちがいだ!」と白を切るつもりで発した言葉であろう。いずれにしても、トンチンカンな英語なので、かえってユーモアがあり、そのため一時流行言葉ともなった。 |
クーポン切り取り式になっている切符のこと。汽車の回数券、衣料切符、商品に添えてある景品券など。 |
スランプ元は泥沼の意。それから泥沼の中へ落ちこむことにもいい、運動選手や芸術家が「スランプに陥った」といえば、調子が悪く、思うように活躍できなくなった沈滞期をいう。夫婦生活のスランプは倦怠期という。結婚生活には必ずスランプが来るものと盲信している人もあるが、これはハシカのような必ずかかる病気とはちがって、予防によって容易に防ぐことのできるものである。その予防法について、ある医学博士が「珍しいご馳走と思って食べ過ぎると食傷を起こす。食べすぎない注意が大事」といっている。含みのある言葉である。 |
ダブル・プレー野球用語で併殺とか重殺と訳し、一時に二人の走者をアウトにすることをいう。それにちなんで、同時に二つの問題を見事に解決した時などにダブル・プレーという。婚約成立した相手のお嬢様は美しくてしかもお金持ちのマナ娘とあっては正にダブル・プレー。 |
ラバー・ソール底革の代わりにゴムを貼った靴。自動車のタイヤのような、切込みのあるクリート・ソール、チリメン皺のよった、クレープ・ソールなどの種類があり、いずれも硬い路面を踏んで反動が少しも脳天に響かず、足どり軽く歩けることが特長で、いかにもアメリカ人好み。アロハ・シャツやギャバディン服と同じく、アメリカン・スタイルを随喜する戦後派青年が是非一度は履いてみたいとあこがれる靴。 |