詩人のための量子力学

「詩人のための量子力学」(レオン・レーダーマン、クリストファー・ヒル 著、吉田三知世 訳 白揚社)詩人のための量子力学
本の表題にある「詩人のための・・・」は、アメリカの大学で文科系の学生を対象とした理系の講座を、「詩人のためのXX学」と呼ぶ風習に由来するそうである。
本書はその表題のとおり、極力数学の数式を使わずに、分かり易く書かれた量子力学の解説書(入門書)である。
著者のレオン・レーダーマンは1988年ノーベル賞物理学賞を受賞したアメリカの物理学者である。
量子力学や宇宙物理学の解説書というのは、奇想天外な発想や、にわかには信じがたい事実が記されており、下手なSF小説よりもよっぽど面白い。 そこで、同じような内容の本であってもついつい手を出して読んでしまう。本書は、量子力学の解説書に必ずといっていいほど出てくる「シュレディンガーの猫」の話や、最新の弦理論、超対称性の解説のみならず、古典物理学以来の歴史、古典物理学と量子力学の対比、化学と量子力学の関係、あるいは量子コンピューターの話題など、その内容は多岐にわたっている。

量子力学を数式を使わずに説明するということは非常に難しいことに違いない。
より正確で深い内容を知ろうと思えば、多分、数式を理解しなけれべならないのだろうと想像はつくが、残念ながら私は数学に対してそれだけの理解力は持っていない。
よって、本書のような解説書は(正確性に欠ける点があったとしても)あり難いものである。
最新の量子力学というものは数学そのものだそうである。
古典物理学の時代は、物理学の理論を、実験によって証明することができた。
例えば、ニュートン力学の法則を使って大砲の弾の弾道を計算することが出来るが、これは実際に大砲を打ってみることで計算通りの軌道で弾が飛んでいくことを証明できる。
しかし、最新の量子力学の世界ではこうはいかない。
例えば、「今日に至るまで、自然界に弦や超対称性が存在するという証拠はまだ全く発見されていない」、「弦理論には実験から提供されるものが事実上皆無だ」といった具合で、あるのは数学の数式だけのようだ。量子力学において、真理とは数式そのもののように見受けられる。

量子力学の世界観が私たちの直感とかけ離れていることを端的に示しているのが「シュレディンガーの猫」の比喩である。
シュレディンガーの猫とは、次のような思考実験のことである。まず猫を箱に入れる。この箱の中には放射性物質と、ガイガーカウンターに連動して猛毒を発生させる装置が仕組まれている。時間内に放射性物質が崩壊して放射能を出す確率は50%である。
すなわち、猫が死ぬ確率は50%、生きている確率も50%、という実験である。箱を開けて「観測」すれば、猫が生きているか死んでいるかが分かる。私たちの世界観では、猫は生きているか、死んでいるかのどちらかであり、その確率は50%ということになる。
しかし、量子力学の世界(波動関数の世界)では、生きている状態(50%)と死んでいる状態(50%)が重ね合わさって存在しているという。そして、箱を開けて「観測」した時に、波動関数は一気に収束して、死んでいるか、または生きているという状態に変化する(確定する)のである。
つまり、箱を開けるまで(観測するまで)は、「確率」そのものが存在しているとも言える。
今目の前にボールがあったとする。この時私たちは、ボールが存在する(実在する)と認識する。
しかし、微小な世界(量子力学が扱う世界)では、このように実在するモノが存在するのではなく、存在しているのは「確率」だということになりそうだ。そして、「観測する」という行為が状態を変化させてしまう。
さらに、ボールの場合は実在する場所(位置)と質量を特定できるが、量子力学の世界では不確定性原理により、位置と運動量を同時に特定することは出来ない。
これが量子力学が私たちの直感と異なる部分であり、違和感を感じさせる部分でもある。実際のところ、アインシュタインもこのような世界観に最後まで異を唱えていたそうである。

最後に最近話題の量子コンピューターについて、本書における解説を紹介する。
「量子計算では0と1が両方同時に1つの計算ステップに参加できる」。ここでは、「同時に」という点がポイントである。「0または1」ではなく、0と1の状態が同時に存在し得る点が、普通のコンピューターとは異なっている。0と1は”OR”ではなく”AND”の関係にある。
キュビット(一般のコンピューターでいうレジスタ)を増やしていけばとり得る状態を全て同時に、1ステップで計算できる(より正確に言うと、計算するというよりは、並列的にシミュレーションを行い結果を導き出す)。
このように量子コンピューターは、「特殊な問題に取り組めるよう特化されたコンピュータにすぎず、現在使われている古典的なコンピュータとは全く違うものである」。そして、量子コンピューターが得意とするのは、ものすごく大きな数を因数分解する、という類の問題である。

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