今年(2014年)の夏、デング熱の国内感染とその拡大がニュースになった。
多くの人は、デング熱という名前を聞いたことはあっても、それは東南アジアや南太平洋など、日本からは遠い熱帯地域や亜熱帯地域で発生する感染症だと考えていたに違いない。また、日本で感染者が見つかる場合、それは海外渡航歴があるケースに限られると考えていた。
ところが、今年は日本国内で蚊を媒介として感染が広がった。
感染しても重症化することは稀だと言われても、感染症リスクが身近に迫っているという事実から、パニック的な要素も加わって、結構な大騒ぎになった。
その後もデング熱感染者は増え続け、9月19日厚生労働省はデング熱の国内感染が17都道府県で合計141人になったと発表した。
感染源は、最初に感染が確認された代々木公園に始まり、新宿中央公園、外濠公園、そして上野恩賜公園へと広がった。そして感染拡大を防止するため、代々木公園と新宿御苑は閉鎖される事態になった。
熱帯地域や亜熱帯地域に見られるデング熱が東京を中心に広がった原因は何か?
最大の要因の一つが地球温暖化の影響である。
実は、日本でデング熱などの感染症が流行するリスクがあることは、ずっと以前から知られていたのである。
環境省、文部科学省、気象庁が共同作成した「日本の気候変動とその影響 2012年度版」というレポートがある。このレポートは環境省のホームページから入手できるのだが、レポートには以下の記載がある。
「デング熱を媒介するヒトスジシマカの分布は年平均気温11°C以上の地域とほぼ一致しており、1950年以降、分布領域が東北地方を徐々に北上していく傾向がみられる」
「ヒトスジシマカの分布拡大が直ちにデング熱感染に結びつくものではないが、今後デング熱流行のリスクを持つ地域が拡大することが示唆されている」
ヒトスジシマカの分布域は北上を続け、2100年には北海道まで広がる、との予測だ。
さらにこのレポートでは、デング熱流行のリスクの他にも、大雨災害の深刻化や、高波・高潮リスクの増加などが指摘されている。
今年甚大な被害が出た大雨や土石流の被害に関しても以下の記載がある。
「渇水リスクの増加の一方で、大雨に伴う災害リスクも増加すると考えられる。全国の1級河川を対象とした研究では、河川の最終整備目標を超える洪水が起こる確率は、将来においては現在の1.8~4.4倍程度になると予測されている。また、山地における傾斜崩壊のリスクも増加する恐れがある」
「山地や丘陵地の斜面の一部が、表土だけでなくその下の基盤まで崩壊し、その規模が比較的大きいものは、深層崩壊と呼ばれるが、こうした深層崩壊の危険性も増していく可能性がある」
雨が降らない日が増える一方で、短時間に激しい雨が降る頻度は、日本のすべての地域で増加すると予想されている。さらに丘陵斜面の崩壊は、表層だけでなく深層崩壊のリスクも増しているのだ。
このような地球温暖化の影響は、もちろん日本だけの話ではないのだが、日本の平均気温の上昇率(100年あたり1.15℃)は、世界平均(100年あたり0.68℃)を大きく上回っている。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次報告書(AR5)が2014年4月13日に公表された。 (AR5の日本語訳がいずれ環境省のホームページに掲載されると思われる)
AR5では、産業革命以前に比べて気温の上昇を2℃未満に抑える必要があることを訴えている。気温上昇が2℃を超えると、食糧生産の減少や極端な気象現象の発生など各分野に深刻な影響を与えるからである。
そして2℃未満に抑えるためには、今世紀末にかけて温暖化ガスの排出をゼロか、マイナスにする必要がある。
追加的な緩和策を打たなかった場合、2100年における世界平均地上気温は、産業革命前の水準と比べ、3.7~4,8度も上昇する可能性が高いそうだ。
ヨルゲン・ランダース「2052今後40年後のグローバル予測」では、21世紀後半に気候変動が自己増幅し始めるか否かが危機的状況の大きな分かれ目になる、と警告している。
気候変動の自己増幅が始まると、人間にはもはやこれを止める術がないとのことである。
米ニューヨークでは9月23日、国連気候変動サミットが開かれた。これに先駆けて、22日にニューヨークの金融街でデモが行われた。デモはウォール街に向かって行進し、資本主義や大企業が地球温暖化の原因を作っていると主張した。
このブログ記事を書いている間に、「セアカゴケグモ、都内で初めて確認」のニュースが流れた。
「三鷹で十数匹」とあるから、ごくごくご近所の話である。
セアカゴケグモはオーストラリアを原産地とし、主に熱帯地域や亜熱帯地域に生息するクモのようである。こちらも温暖化にともない、国内の生息域が北上しているのだろうか?
いずれにしろ、地球温暖化対策が待ったなしの状況になりつつあることを、私たちも肌で感じはじめていると言えよう。
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