パリ経済学校のトマ・ピケティ教授の著作「21世紀の資本」が、世界で150万部を売り上げ、日本でもベストセラーになっているという。経済書にしては異例の部数だそうだ。さらに、ピケティ教授が来日して、講演や記者会見、テレビ出演するなど、論議が盛り上がっている。
メディアも連日のように取り上げ、STAP論文以来のフィーバー振りだ(・・・と、これは少々言い過ぎか? ピケティ教授の論説を解説しているメディアは多いが、反論を論理的に伝えるメディアはほとんど存在しない。この点もSTAP論文フィーバーに似てなくもない・・・)
最初に、私自身は経済学の専門家ではないし、またこの本も読んでいないから、ピケティ論争を云々できるレベルにない。
そもそも経済学の門外漢から見ると、この本700ページ超で値段も6,000円近い、気軽に買って読めるレベルを超えている。(図書館で借りようかとも思うが、たぶん予約でいっぱいだろう・・・)
しかし本書の内容に関しては、いろいろなメディアが取り上げていることもあって、その概略は窺い知れる。
ピケティ教授の主な主張は、経済成長率が鈍化している先進国では、富の格差が広がる傾向にある。その原因は、資本(財産)から得られる収益(資本収益率)が、経済活動の伸び(経済成長率)を上回っているから、とするものである。
すなわち、資本(財産)を多く所有しているものと、そうでない者とで所得格差が拡大するから、その対策として資本(財産)を多く所有するものに累進課税を課して富を再配分する必要があると説いている。
この場合の課税対象は所得というよりは、資産、すなわち資産課税である。
日本経済新聞のデジタル版に、所得格差が拡大していることを示すグラフが出ている。それをみると、1980年代以降、米国や英国では格差が随分と拡大しているように見えるが、日本はそれほど顕著ではない。(日本は、富める者とそうでない者の差が、米国や英国ほどではない、といえる)
経済学の入門書には、「パレート最適な状態は必ずしも富が公平に配分された状態とは限らない。これを是正するには課税などで富を再配分する必要がある」といったことが書かれている。すなわちこの問題は古くて新しい問題なのだろう。
実際、資産課税や富/所得の再配分などのキーワードでWebを検索してみれば、このテーマに関わる諸説が出てくる。
(ピケティ教授の指摘を待つまでもなく)資産課税については、日本でも既に強化される方向で動いている。
具体的には平成25年度、相続税・贈与税が改正され、課税対象者と課税額は増える方向にある(改正の適用は平成27年から)。相続税の定額控除が、5,000万円から3,000万円に減額され、法定相続人比例控除も1,000万円から600万円に減額されている。さらに税率も最大50%から55%になり、税率構造(テーブル)が変更されている。
その他の資産課税には不動産取得税や固定資産税などがあるが、これも将来増える可能性が高い。
さらに資産の対象を広げていくと、株式や預貯金などに対する課税も考えられなくはない。
しかし、資産課税には問題点もあるように思う。
例えば、給与からコツコツと貯めて資産を購入したAさんと、同額の給与をもらいながら全て消費したBさんを考えた時、Aさんの資産に課税することは必ずしも公平ではない。
Aさんが資産を購入する元手となっている給与は、既に所得税を支払った後のものだから、Bさんと比べると二重課税になっている。(Bさんのように消費を活発にすることが経済成長につながるという意見もあろうが・・)
ピケティ教授の指摘で注意が必要なのは、「成長の低下も格差拡大を招く」という点であろう。
日本の人口は既に減少傾向にあり、さらに65歳以上の人口は増加傾向にあるから、内需だけだと経済成長は低下する方向にある。
以前にも引用したが、ヨルゲンランダース「2052 今後40年のグローバル予測」では、世界全体で見ても2052年頃には経済の成長は止まると予測している。
さて、どのような人がこの本を購入しているのか、今のところどのメディアも購買層を分析したデータは伝えていないようだ。
唯一朝日新聞デジタル版に、「特に所得が上位の層が強い関心を持っているようだ」という訳者の推測が出ている程度である。所得が低い層にとって、6,000円近い本書は購入を躊躇わせるだろう。
所得を再配分すべき、すなわち本書を読んでもらいたい層に本書が届かないとしたら、いささか皮肉なことである。
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