豆腐百珍と検索エンジン
北原進「百万都市 江戸の生活」の姉妹編である「百万都市 江戸の経済」に、「豆腐百珍」という江戸時代にベストセラーとなった料理本の話が出ている。この「百万都市 江戸の経済」、表題は「経済」であるが「文化」とした方がしっくりする内容の本である。 「豆腐百珍」は豆腐の色々な料理法を記した本であり、「続編」、「余録」といった続き物も出版されたそうだ。発行は天明2年(1782)、版元は大坂高麗橋の書物屋である。豆腐料理の本が流行ったのは、庶民の生活が安定し、やや向上してきたことで、豆腐が庶民の間にも随分と普及したからだそうだ。江戸時代の豆腐1丁は現在のものより4倍くらいの大きさで、現在の金銭感覚で250円くらいに相当するらしい。 豆腐百珍の各節は、尋常品、佳品、奇品、妙品、絶品などに分かれている。この中には今も料理として残っているものもあれば、そうでないものもある。 料理の専門家や料理好きの中には豆腐百珍に掲載の豆腐料理を再現した人もいるに違いないと思い、Webを検索してみた。すると案の定「豆腐百珍を現代に蘇えらせる」などの表題のWebサイトが見つかった。料理レシピと完成品の写真までが出ており、その探求心、研究心には恐れ入る。 例えば「江戸の経済」で紹介されている「金砂(すなご)豆腐)」、本の中では調理法のみが紹介されており、「豆腐の水気をよく絞ってすり、卵の白身をつなぎに混ぜてまな板に延ばす。そこへゆでた黄身を崩して乗せ、押さえ蒸す。適度に固まったら小色紙の形に切る」と書かれているが、これだけでは今一つイメージが湧かない。一方、先ほどのWebサイトの方には、(多少現代風にアレンジしているのかもしれないが)完成品の写真まで載っているので、それが如何様なものかが分かる。さらに「見た目にとても優雅な1品に仕上がっており、味も豆腐とは思えない」との寸評まで書かれている。 「豆腐百珍」の大ヒットに続いて、柳の下の二匹目の泥鰌を当て込み、鯛百珍、甘藷百珍、鱧(はも)百珍、こんにゅく百珍などが続々と出版され、これらも結構売れたらしい。江戸時代、庶民の食文化は、思いのほか豊かだったようだ。 「江戸の経済」には、豆腐売りや納豆売りなど、行商人の「売り声」が出ている。例えば、「ナット納豆~ィ、納豆」、「イワシコーッ」、「アッサリ~、シンジメ~」といった具合である。 また、「イギリスで、『昔のロンドンの売り声』(Old London Cries)という本を見つけた。ひと昔前に、市内で聞こえた道ばたの小商人たちの売り声を集めたものである。煙突掃除夫、パン屋、たばこ売り、・・・可愛いい花売り娘など、さまざまな呼び声が、挿絵つきで解説されていた」と書かれている。 さてロンドンの売り子はどのような格好をして行商していたのか、いささか気になり、これもWebで検索してみた。そうすると、この本は19世紀に出版されたものらしく、この本の挿絵からの抜粋と思しき絵も幾つか見つかる。同じ行商でも東洋と西洋の文化の違いが表れていて面白い。 豆腐百珍にしろロンドンの売り子にしろ、Webを検索すれば大抵の情報が入手できる。中には真偽の怪しい情報もそれなりに含まれているが、検索エンジンの性能は随分進化したと実感する。この検索大手のGoogleが、EU競争法(独占禁止法)をめぐって欧州連合(EU)と全面対決する様相になってきたと報じられた。これは、ネット検索サービスで約9割のシェアを握る支配的な地位を乱用し、通販などの自社サービスが有利になるよう検索結果を表示させ、同業他社を市場から締めだした疑いがあるからだという。 Web上には種々雑多で膨大な情報があり、且つ情報量も日々増えているから、今や検索サービスは情報を入手するうえで必須のツールだといえる。EUがGoogleを目の敵にする理由は、優位な地位を乱用している疑いがあるからだけでなく、Googleに匹敵するようなWebサービスを提供する企業がEU内には育っていないからだという見方もあるようだ。 Google検索に関しては、2014年5月「忘れられる権利」をめぐる裁判が記憶に新しい。これは、EUの最高裁にあたる欧州司法裁判所が、Googleに対して個人名の検索結果から、個人の過去の事実を報じる内容へのリンクを削除するよう命じたものである。 これは個人のプライバシー情報の保護と、表現の自由をめぐるインターネット利用の課題である。 おりしも日本では個人情報保護法の改正案が衆院本会議で可決されたことが報じられた。改正案では「本人の同意なしに」個人情報を当初の目的以外にも使える道が残されるようだ。もちろん目的外の利用が無制限に行われてはならない。また、本人がオプトアウトできる道も残すべきだと考える。 いずれにしろインターネット上の情報提供や情報サービスをめぐっては、例えばドローンなどのIOTを含め、今後ともプライバシー情報をどこまで保護するのかが課題となるだろう。 |