中小企業診断士ならずとも「中小企業白書」を知る人は多いと思うが、今年(2015年)中小企業庁から「小規模企業白書」という白書(報告書)が出ている。小規模企業白書は、小規模企業振興基本法第12条に基づく年次報告書である。
今年が第1回目となる小規模企業白書の構成は、第1部「小規模事業者の構造分析」と、第2部「小規模事業者の挑戦」の2部から構成されている。第1部「小規模事業者の構造分析」では、小規模事業者の定義、動向、未来と、「地域における小売りの現状/地域リーダーとしての役割」が記載されている。
第2部「小規模事業者の挑戦」は、小規模企業振興のための4つの目標と、目標に即した42事例が紹介されている。ここで4つの目標とは、①需要を見据えた経営の推進、②新陳代謝の促進、③地域経済の活性化に資する事業活動の推進、④地域ぐるみで総力を挙げた支援体制の整備、である。
先ず、小規模事業者とは、中小企業基本法の定義によれば、下表のとおりである。
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中小企業基本法の定義 |
中小企業者 |
うち小規模事業者 |
業種 |
資本金又は従業員 |
従業員 |
製造業
その他 |
3億円以下 |
300人以下 |
20人以下 |
卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
5人以下 |
サービス業 |
5,000万円以下 |
100人以下 |
5人以下 |
小売業 |
5,000万円以下 |
50人以下 |
5人以下 |
最初に小規模事業者の事業所数の推移を長期トレンドで見ると、事業所の数が最も多い「飲食店等」と「飲食料品小売業」で、事業所数の減少が顕著である。
「飲食店等」の事業所数は1986年がピークで、その後減少が続き、2012年はピーク時の約3分の2に減少している。「飲食料品小売業」の事業所数は1972年~1981年あたりがピークで、その後減少が続き、2012年はピーク時の3分の1以下にまで落ち込んでいる。
小売業全体で見てもピーク時から約50%減少している。また、製造業でも46%減少している。
次に経営者(個人事業主と、法人の経営者)の手取り年収を見ると、個人事業主では手取り年収300万円以下が61%と過半であり、法人の経営者でも手取り年収300万円以下が32%にのぼる。経営者といえども、家族や親族全体の収入で家計を支えている実態が見えてくる。特に経営が不調な時期は、事業収入とそれ以外の収入(家族が他の会社で働いて得る給与や、所有不動産の賃貸料)で生計を立てているが、さらに経済全体が厳しい時は、年金や貯金の取崩しが生計手段の中で重要なウェイトを占めるようになると分析している。
小規模企業白書では、新しい働き方の1つとして「フリーランス」を取り上げている。フリーランスは、システムエンジニア(SE)、Webデザイン、ライティング、翻訳、通訳などにみられ、自らが持つ経験や技術を拠りどころに、組織に属さず個人で活動する働き方である。
年齢層による分類では、50代が38%、40代が36%と多く、経験・技能や人脈を形成できるのがこの年代だと推測される。
フリーランスは、「自由度・裁量」、「内容・やりがい」、「生活との両立」に関しては満足する傾向にあるが、「社会的評価」や「収入」面では満足する傾向が少ないという結果になっている。特に収入については、「満足している」と回答しているのは14.5%に過ぎない。
フリーランスに関連して、最近「クラウドソーシング」という言葉を目にすることが増えた。クラウドソーシングとは、群衆(crowd)と業務委託(sourcing)を組み合わせた造語で、不特定多数の人に業務を委託するという新しい雇用形態を指している。具体的には、インターネット上で、作業を委託したい事業者と作業を受注したい人(主にフリーランス)を仲介するWebサービスが展開されている。
総務省の「平成26年版情報通信白書」によれば、わが国におけるクラウドソーシングの利用は2009年頃から本格化したと言われており、2012年時点でその市場規模は100億円を超えている。
国内の市場規模はその後右肩上がりで成長を続け、2017年度には1,473.8億円規模に達する見込みであり、クラウドソーシングの市場活性化に伴いサービス事業者の参画も続いており、既に数十社がサービスを提供しているという。
業務を受注する側の利用者の年齢層については、女性は30代の子育て層にも人気が出ており、シニア層についてもクラウドソーシングの利用者が増加傾向にあるなど、幅広い性別及び年齢層での利用が進んでいる。
今のところクラウドソーシングの対象業務(仕事)は、プログラム開発やホームページの構築、バナーの作成などIT関連の仕事が多いようだが、今後他の業種にも広がっていくのか、気になるところだ。
例えば、2014年に発生した富士見市ベビーシッター事件(自称保育士の男が預かっていた子供を虐待していたとされる事件)は、保育業務を委託する側と委託される側がインターネット上で出会っていることから、クラウドソーシングの一形態であるとも考えられる。
クラウドソーシングについては、その広がりだけでなく、そこから生じる新たなリスク(その多くは情報の非対称性が原因と考えられるが)についても考えていく必要がありそうだ。
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