年金情報漏洩事件
2015年6月1日、日本年金機構の情報系システムから約125万件の年金情報(基礎年金番号を含む個人情報)が漏洩したことが新聞・テレビなどで報道された。流出件数が多いこと、来年(2016年)にマイナンバー制度の運用開始を控えていることなどから大きなニュースとなった。当然、IT関係のメディアでも本件の原因や対策などが報じられるだろう(ぼちぼち報じられ始めている)。 この事件は(その手口を見ると)、典型的な標的型攻撃メールである。「情報セキュリティ白書 2014」(IPA:独立行政法人情報処理推進機構 発行)によれば、標的型攻撃メールとは、 ①攻撃計画の立案 となっている。この一連の手口を見ても分かるように、標的型攻撃メールは組織的に、計画的に行われる犯罪行為である(読売新聞は、クラウディオメガと呼ばれる組織による攻撃だと報じていた)。攻撃対象となっているのは、官公庁・地方自治体が最も多く、その次に金融機関、マスコミ関係、IT・通信が続く。 今回の事件報道を受けて、世間の主な関心は、今後「何らかの成りすまし行為」などが行われるのではないか、という点にある。また、来年から運用が始まるマイナンバー制度でも、同じような個人情報の流出が起こるのではないか、という懸念も出ているようだ。 個人情報/プライバシー情報を扱う企業・組織は、システム面の対応だけでなく、社内規定の整備や従業員に対する情報モラルの教育、そして管理面を含む組織態勢の確立が極めて重要である。 |
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2015/7/17追記 その後の報道によると、日本年金機構の標的型攻撃に使われた可能性が高いのは、Emdivi(エムディビ)と呼ばれる遠隔操作ウイルスである。Emdiviは、メールに添付された文書ファイルなどに偽装して侵入する。侵入後、PCにバックドア(裏口)を開き、バックドアを通じてC&Cサーバーと通信し、攻撃者がPCを遠隔操作できるように準備する。 標的型攻撃では、攻撃ごとに亜種が作られるためウイルス対策ソフトでは検知できない。さらに、侵入後に検知することも難しい。自身の活動ログを消去するし、外部との通信はHTTPと80番ポートといった一般の組み合わせを使うからである。 攻撃者はまだ分かっていないが、中国語を理解し、かつ日本の官公庁や企業の事情に通じた人物を含む集団のようだ。 |
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アメリカでも、サイバー攻撃により社会保障番号などの個人情報が流出する事件が起きている。AFP通信によれば、2015年6月、米連邦人事管理局(Office of Personnel Management、OPM)がサイバー攻撃を受け、現職員、元職員、採用候補者の個人情報が流出した。個人情報流出の被害者は2,210万人に上った。流出した個人情報には、社会保険番号のほか、採用希望者の健康状態、財政状態、犯罪歴の有無、家族構成などが含まれていたという。 |
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2018年3月20日、日本年金機構は記者会見を開き、年金受給者から提出された扶養親族等申告書のデータ入力にミスがあり、年金支払い時の源泉徴収額の誤りが約31万8000人に上る見通しであると発表した。 入力ミスが発生した原因を探っていくと、「データ入力を委託した業者が契約に違反して中国の業者に業務を再委託していた」事実が判明。データ入力の対象である申告書には、受給者本人の氏名、住所、生年月日、マイナンバーに加え、扶養家族の氏名、続柄、生年月日、マイナンバー、年収、障害の有無などの項目が存在する。幸いマイナンバーなどの情報が外部に流出することはなかったようだが、一歩間違えれば重大インシデントに発展した恐れがある。 なお、日本年金機構と委託業者間の契約では、再委託が禁止されていたほか、作業も国内で実施することになっていたという。 |
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