プロジェクト管理あれこれ

細川義洋「システムを「外注」するときに読む本」(ダイヤモンド社)は、ユーザ企業のシステム担当者やプロジェクトマネージャー(以下PM)、CIO、経営層を対象とした、ITシステム構築に関する書籍である。
本書では、システム構築をITベンダーに委託する際、ユーザ企業としてベンダーとどのように関わっていくべきか(ユーザ企業はシステム構築に関わる作業のなかのどの範囲を、どのレベルまで担当すべきなのか)を、読み物(ストーリー)を交えて解説している。システムを外注するときに読む本
幾つかのエピソードからなる物語風の読み物になっているので楽しく読める(それでも、詐欺(犯罪)まがいの物語や、バーで働く女装の美青年が登場する話など、それってちょっとどうなのよ? と思うところもあるが・・・)。
そして各エピソード(テーマ)のなかで、著者がプロジェクト遂行上の注意点・留意点を解説するとともに、必要に応じてチェックリストなどを参考資料として載せてくれている。
各テーマのポイントや注意点は、(われわれ)ITベンダーからみると、いわゆる「あるある」である。
重要成功要因のなかで著者が最も強調しているのは、「システムの開発は、発注者とベンダーの協業である」という点である。発注者(ユーザ企業)はベンダーに丸投げではいけないし、ベンダーも必要なことは発注者にどんどん要求していかなくてはならない。
特に要件定義(要求定義) の工程は、発注者(ユーザ企業)が主体的に要件を抽出していくべき工程であり、ここで発注側と受注側(ベンダー)が上手く協力していかないと、進捗遅延や要件漏れなど、種々の問題を引き起こしかねない。
実際、要件定義工程で発生した問題がもとになって、裁判にまでもつれ込んだ事例もある。日経コンピュータには「動かないコンピュータ」という有名な連載記事があるが、要件定義関連で裁判にまで発展した最近の事例に、野村証券の基幹系システム全面刷新の問題がある。
この問題は、ベンダーがパッケージベースのシステム刷新を提案したが、要件定義の不手際から進捗遅れが発生、さらにベンダー側主要メンバの退職や移動・・・、等々で結局プロジェクトが頓挫したという事案である。本書に登場するストーリーや注意点と重なる点が多い。

本書では「契約」について詳細には触れられていないが、ユーザが主体的に作業してベンダーがそれを支援するような工程は、「準委任契約」で作業する場合が多い。
今でも一括請負という形態はあるのかもしれないが、工程毎に請負契約、あるいは準委任契約を締結する方がリスクを軽減できる(工程ごとに契約を結ぶ場合でも、はじめに全体の基本契約を締結するのが一般的である)。

要件定義工程で業務フロー図(As-IsとTo-Be)を作成することは一般に行われているが、「フィーリングマップ」というものの存在は本書で初めて知った。これは著者のアイデアなのかもしれないが、ステークホルダー・マネジメントの一環として面白い方法だと感じた。

ベンダーの視点からみて怖い「あるある」は、ユーザ側の要件定義態勢の問題である。
本書の事例にもあるように、ユーザ企業のIT部門がエンドユーザ部門の要求をまとめきれない(エンドユーザ部門の協力を取り付けることに失敗している)ケースである。
このようなケースでは、進捗遅延リスクだけでなく、後工程になってユーザ要件が漏れていた、とか、最悪の場合「出来上がったモノが要求したモノと違う」というような問題を引き起こす。ユーザテストの工程もエンドユーザの協力が不可欠な工程と言えるだろう。

本書の内容はベンダーからみても共感できるものであるが、気になる点がないわけではない。ひとつは、システム構築における工程定義と、各工程で発注者が行う作業の説明(一覧表)である。
この工程定義には「移行」を明記して追加するべきだろう。移行(新システムへの移行作業)は、プロジェクトにとって大きなテーマになる場合がある。また、ユーザ企業とベンダーが協業して進める工程でもある(ユーザ企業が主体となりベンダーがそれを支援する、という形態が多い)。
最近では、みずほフィナンシャルグループの移行が世間の注目を集めている。
みずほフィナンシャルグループは、2018年半ばから2019年7月まで、合計9回に分けて移行作業を実施する計画である(現在は8回目までの移行が終わっている)。
この移行作業では、ATMやオンラインサービスの停止など、利用者への影響も大きく、度々ニュースでも話題になった。
これほどの巨大プロジェクトはめったにないだろうが、既存システムから新システムへの移行作業は、システム構築上の大きなポイントになる場合がある。
日経コンピュータの記事(2019/03/04)によると、三菱食品がシステム開発の失敗を巡り発注先のITベンダーを提訴した事件がある。この事件では、ユーザ企業の取引先3000社の移行作業に関連して問題が発生している。

本書の内容(ユーザ企業とITベンダーの作業範囲、責任範囲や契約の問題)をさらに深掘りするためには、「 共通フレーム2013(SLCP-JCF2013)」が有効であろう(ただし、用語が専門的すぎるのと、文章が分かりにくいのが難点ではある)。
共通フレームはソフトウェア開発とその取引に関する作業を定義して標準化することを目的としており、ソフトウェアライフサイクルのなかの各プロセスで実施すべき作業項目を定義している。
この共通フレームは、ソフトウェアライフサイクルプロセスの規格であるJIS X 0160:2012をベースにしている。さらに、JIS X 0160:2012は、国際規格ISO/IEC 12207に対応した規格である。
共通フレーム2013(SLCP-JCF2013)ではITを取り巻く課題として、「要件定義や役割分担の問題」、「ステークホルダの合意の問題」、「不明確な取引の問題」、「見積りの問題」、「仕様変更の問題」、「プロジェクト任せという問題」等々が指摘されており、本書の指摘と共通するところが多い。
(共通フレーム2013(SLCP-JCF2013)についてはこちらを参照

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