日経コンピュータ「みずほ銀行 システム統合、苦闘の19年史」
本書は、サブタイトルに『史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」』とあるように、みずほ銀行における勘定系システムの刷新と統合プロジェクトの経緯を追ったものである。 本書の構成は、 第一部:勘定系刷新プロジェクト「MINORI」の全貌とプロジェクトの経緯、みずほFGのデジタル経営戦略 第二部:2011年3月に発生した大規模システム障害の振り返り 第三部:2002年4月の経営統合直後に発生した大規模システム障害の振り返り の三部からなる。 みずほ銀行における勘定系システムの刷新と統合は、2000年にみずほホールディングス(現、みずほFG)が発足して以来の19年越しの悲願であった。 勘定系刷新プロジェクト「MINORI」は、2011年6月にスタートしている。プロジェクトがスタートするまでに、みずほ銀行は大規模なシステム障害を2回起こしている。それが本書に記載されている、第三部と第二部の障害である。 2011年3月に発生した2回目の大規模障害が、みずほ経営陣をして、「勘定系システムの刷新と統合」への投資を決断させた。 MINORIは、旧第一勧銀の勘定系「STEPS」と、旧興銀の勘定系「C-base」、みずほ信託銀行の勘定系「BEST」を統合するものである。 アプリ開発費は4,200億円、開発工数35万人月、ピーク時8,000人のエンジニアが参画(いずれも本書の推定)と言われており、文字通り日本で最大規模のシステム構築プロジェクトであろう(本書では、東京スカイツリーの建設費と比較して、東京スカイツリー7本分に相当するとしている)。 プロジェクト「MINORI」は、これだけの大規模プロジェクトであるから、決して順調に推移したわけではない。 2014年4月と2016年11月の二度にわたってプロジェクトを延期し、最終的に2019年7月に本稼働している。実に8年の歳月をかけた大規模プロジェクトである。このうち、システム移行は1年がかり(移行のためにATMを停止した回数は9回)で行われた。 アーキテクチャから見たMINORIの特徴は、SOA(サービス指向アーキテクチャ)を採用していることと、バッチ処理(振込処理をはじめとするバッチ処理)をオンライン処理にしたことだという。 旧第一勧銀の勘定系「STEPS」は、夜間バッチとオンライン処理を平行稼働できない。日中にオンライン処理を実施して、夜間にバッチ処理を行うという運用形態である。さらにバッチ処理には、いわゆる「リスタート機能」がなかったようである。 バッチJOBにリスタート機能がないことが、2011年3月の大規模障害の原因の一つになった。異常が発生した場合のJOBネットを現場で組み立てて、手動でJOBを実行していたようだ。これでは当然人的ミスが発生する。障害への対処が新たな障害を誘発するという事態に陥る。 旧システムであるSTEPSは、稼働後も新サービスの投入や法制度対応などで修正を繰り返していたため、ブラックボックス化していた。俗にいうソースコードのスパゲッティ化と、設計ドキュメントのメンテナンス不備の問題だろう。 MINORIの要件定義では「As Is」を全面禁止して、業務フローを全面的に見直した(いわゆるBPRした)そうだ。これなども古くからある、「現行踏襲には注意しろ」という警句そのものである。 本書では明示されていないが「標準化」も昔からある古くて新しい課題である。システム開発プロジェクトでは、稼働後のメンテナンスを考えて、ドキュメントやプログラム構造などを標準化して、俗人性を極力排除することが重要になる。 このように見てくると、MINORIで発生した課題や問題点は昔からある「あるある」であるが、規模が超巨大であるだけに、このプロジェクトが無事に収束してカットオーバーを迎えたことには素直に感動を覚える。現場のSEをはじめ、プロジェクトマネジメント層、経営層の活躍は称賛に値する。 |
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2021年10月 追記:2021年9月30日、みずほ銀行は今年に入って8度目のシステム障害を起こした。 金融庁が9月22日に、みずほ銀行とみずほフィナンシャルグループに対して業務改善命令を出した最中の出来事である。 みずほグループがシステム障害関連で業務改善命令を受けるのは、みずほ銀行が発足した2002年以降で3回目になる。 2021年のシステム障害のうち、銀行の顧客に大きな被害が出たのは2月28日の障害だろう。 この時の障害では、自行ATMの7割超に相当する4318台が一時停止した。 停止したATMは、処理中の通帳やキャッシュカードをATM内に取り込んだまま停止したため、顧客がATMから離れられない事態となった。 (出典:日経コンピュータ誌、2021年10月14日号、2021年8月5日号) |
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