エヴァ・ホフマン「時間」
前に取り上げた書籍「時間は存在しない」(著:カルロ・ロヴェッリ)の冒頭、著者のカルロ・ロヴェッリは次のように述べている。 「時間の正体はおそらく人類に残された最大の謎なのだ。時間の正体を突き止めることは、これまでずっと私の理論物理学の核だった」 「時間」(著:エヴァ・ホフマン、監訳:早川敦子、みすず書房)の著者であるエヴァ・ホフマンも 「ずっと私は時間というものにとらわれてきた。そう感じずにはいられない」 「時間というものの実在、そして時間が永遠に進み続けるということを、強烈に、明らかなものとして意識してきた」 と述べている。 カルロ・ロヴェッリ が物理学の視点から時間を考察しているのに対して、エヴァ・ホフマンは社会学や文学の視点から(ときには、生物学や心理学、神経科学の視点で)時間を取り上げている。エヴァ・ホフマンが時間にとらわれてきた背景には、彼女がホロコースト第二世代であるという出自も関係しているのではないか、と監訳者は分析している。 あとがきによれば、エヴァ・ホフマンは、1945年ポーランドのクラクフに生まれる。ユダヤ人の両親はホロコーストの迫害を逃れ九死に一生を得る。その後、反ユダヤ的な不穏な空気を逃れるようにカナダに移住している。 「彼女は祖国との別離と母語の喪失を痛みとともに心に刻んだ」とあるように、この出来事は著者のアイデンティティに大きな影響を与えたと考えられる。 本書(「時間」)のなかで、著者は「時間が連続しているという感覚(過去と未来につながりを作る能力、および経験の流れの継続)は、人間の真のアイデンティティにとって不可欠なものの一つだ」と述べている。 自身の生きた物語を形成し、そこに意味を与えることを通して見出されるアイデンティティを「ナラティブ・アイデンティティ」というそうだ。 時間(内的時間)は、その人が育った文化や環境の影響を受けるであろうことは想像に難くない。著者は言う。 容易に想像できるように、デジタル化(コンピュータ化)が進んだ現代では時間のスピードが急速に早くなっている。時間の高速化は、現代人が経験するストレスや時間をめぐる不安という形であらわになっている。 著者は、時間の高速化は子どもにも悪い影響を及ぼす恐れがあると警告している。 多くの人が「時間とは何か」という問いにとらわれるのは何故だろうか? |
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