(1)借金(国債)頼みの新型コロナ対策
新型コロナウィルス(COVID-19)の感染が拡大し、2020年4月、全ての都道府県を対象に緊急事態宣言が発令されるに至った。
旅行業や飲食業、百貨店、旅館、スポーツジム、ライブハウスなどは営業自粛が続き経営危機に陥るところも少なくない。感染拡大の影響で、中小零細企業を中心に資金繰りに行き詰まる企業が増加。
倒産した企業件数は4月末までに109件に達した(東京商工リサーチ発表)。上場企業でも業績の下方修正が相次ぎ、3兆円を超す売上高と2兆円超の純利益が失われる見通しだという。
当然のことながらこの影響は労働者にも波及している。
解雇・雇い止めに合う労働者は全国で1万人を超えている(2020年5月21日時点)。一部の報道では今後失業者が全国で70万人に及ぶとの試算も出ている。
これらの危機に対応するため政府や日銀は次々と対策を講じている。
政府が取りまとめた緊急経済対策は総額117兆円にのぼる(対策を盛り込んだ補正予算は4月末に成立した)。しかし、学生や中小事業者などへの支援が不十分だとして、国会では第2次補正予算の議論が始まっている。
第1次補正予算117兆円のうち実際に国が新たに直接支出する額は一般会計の総額で25・7兆円だそうだ。
問題はこの財源の多くが借金(国債)だということである。あるテレビ番組でコメンテータが「我々の税金を投入するのだからもっと手厚い支援をするべきだ」と言っていたが、これはちょっと違う。財源は税金ではなく借金のようだ。
今年度の国債の新規発行額は当初予算段階の32.6兆円から、過去最大の58.2兆円に膨らむようだ。(第2次補正予算で金額はさらに膨らむ可能性がある)
国債発行残高は年々積み上がっている。国債や借入金を合計した「国の借金」は2019年3月末時点で1103兆3543億円で、18年度末と比べて15兆5414億円増えた。
年度末の残高は3年連続で過去最大を記録している。(日経新聞デジタル2019/5/10)
この積みあがった借金を将来確実に返済できるのかというと、・・・どうも先行きは不透明だ。
「社会保障クライシス 2025年問題の衝撃」(山田謙次:著、東洋経済新報社)によると、5年後の2025年には医療と介護の社会的費用がピークを迎える。
これは、主に団塊の世代800万人を含む総人口の18%(2,200万人)が後期高齢者になることに起因する。
この書籍では、年金給付費と医療給付費、介護給付費は2015年度に比べ、26兆円増えると予測している。あくまで著者の予測なので、この数字を確たるものとすることは出来ないが、現在より相当増えるであろうことは間違いなさそうだ。
ここで問題になるのが、増加する社会保障費用にあてる財源である。このままでは借金を返済するどころか、さらに借金が増えるのではないだろうか?
財源が借金頼りになる原因の一つは、「国民負担率(国民所得に対する、税金および社会保障に関わるお金の割合)」が低いことである。(これ以外にも所得税の累進課税の程度の問題や、法人税率が優遇されてきたことなども原因だろう)
先の書籍によれば、1970年の各国の「国民負担率」は、イギリスが48%、ドイツ41%、フランス47%、スウェーデン55%、アメリカ34%、に対して日本は24%である。
日本は欧米諸国と比べて国民負担率が少なく、不足する財源を借金(国債など)に頼ってきたと言えそうだ。この積みあがった借金はいずれ返さなければならない。
借金を返済するのは日本の次代を担う青年・壮年である。
仮に近い将来国民負担率が50%になったとすると、月20万円の収入を得ている労働者は手取りで10万円しか貰えないことになる。(50%という数字は大げさではない。先に紹介した書籍の著者は60%程度必要ではないかと考えているようだ)
いま(2020年5月)、新型コロナ感染の収束に向けて「出口戦略」だとか「ロードマップ」だとかが取り沙汰されているが、ここで議論されているのは「戦略」ではなく「戦術」レベルの話である。
真の出口戦略とは、今後どのように経済を立て直し、借金(国債など)をどのようにして返済していくのかという計画(目処と道筋)を示すことではないだろうか?
新聞やテレビのニュースを見ていても、このような「真の出口戦略」に関する議論にはほとんどお目にかからない。(それでいいのだろうか?・・・・)。 |