鈴木信行「宝くじで1億円当たった人の末路」

鈴木信行「宝くじで1億円当たった人の末路」(日経BP社)は、宝くじで1億円を当てた人たちのその後の人生を追ったノンフィクション、ではない。
表題のほか、「事故物件を借りちゃった人の末路」や「”友達ゼロ”の人の末路」、「子供を作らなかった人の末路」など、「xxした人の末路」24編の論考を収録した書籍である。TAKARAKUJI
多くの人が思う疑問、例えば「宝くじの高額当選者は本当に幸せになれたのだろうか? それとも予想外の不幸な出来事が待ち受けていたのだろうか?」に答えたものである。
それぞれの小編には、そのような末路(結論)に至った理由(または考えられる原因)や、その問題の社会的背景などの解説があり、雑学として面白いネタになるかもしれない。また、今まで知らなかった事実を発見して小さな驚きを感じる箇所も少なからずあった。
以下本書から面白いと思った話と、私の感想をいくつか記す。

表題にもある疑問、「宝くじの高額当選者は本当に幸せになれたのだろうか?」は、多くの人の興味を引く疑問であろう。結論は、・・・ある程度、想定範囲内であった。
当選後のいざこざで最もポピュラーなのは家族・親族内トラブルである。それまで縁遠かった親戚までが、当選を聞きつけておすそ分けを求めてくる、などの事例があるようだ。
多くの人にとってこのあたりは想定の範囲内であろうから、たいていの場合「当選した時には他人へは絶対に公言しない」と強く決意する。しかし、いざ実際に当選すると、人は秘密を守っていられなくなるようだ。
このほかにも当選後、生活レベルが上がって浪費が増える、だとか、のんびりとした生活を満喫しようと思っていたが、いざそのような生活を始めてみたら退屈で「人生のやる気を失った」など、あまり良い結末は待っていないようだ。
そもそも、宝くじの当選確率は、「1枚買って7億円が当選する確率は、約1,000万分の1以下」だそうだ。
さらに控除率が約50%と、競馬や競輪の控除率25%と比べても割に合わないギャンブルである。本書によれば、経済学の世界では「宝くじ=愚か者に課せられた税金」と定義する人もいるとのこと。
ここまで書かれるとさすがに宝くじを買う気は失せる。
しかし、10枚買えば当選確率は100万分の1、100枚買えば10万分の1に上がるではないか、と考え直してまた買いに向かう人が大勢いるに違いない。

そもそも、心理学や行動経済学の知見によれば、人間の行動は必ずしも合理的ではないことが知られている。従って、「宝くじは買わないことが賢い(合理的な)選択である」としても、そこにわずかでも当選するチャンスがあると知れば賭けてみたくなるのかもしれない。
実際、宝くじを買う人に「買わない方が賢明な選択である」と説いたところで、大方の人は「買わなければ当たる確率はゼロではないか」と反論してくるだろう。
人間の行動が必ずしも合理的でない(僅かでもチャンスがあればそれに賭けてみる)のは、人間が進化する過程で「その方が良い選択である」とする「何か」があったのかもしれない。
もしかしたら(進化論的に)このような選択をするアルゴリズムが遺伝子に書き込まれているのかもしれない。(以上は個人的な感想であり仮説である)

この宝くじの話題のなかで紹介されている、ロボット掃除機の開発にまつわる話がおもしろい。
「なぜ、日本の家電メーカーは、ロボット掃除機の開発で米国(ルンバ)に遅れを取ったのか? 日本だって開発できる技術は十分持っていたのに」
この疑問に対する回答がおもしろい、
日本のメーカーが開発をしなかったのは、「ロボット掃除機が仏壇のろうそくを倒して火災になるリスクを重視したから」だという。ここまでリスクを深く考察していたとは、ある意味スゴイことだと思うが、本書の指摘にもある通り、リスクをとらない限りリターンは得られない。

本書では日本のメーカーが新しい製品を生み出せない理由として次の3つを指摘している。
①過剰なリスク回避思考
②短期的成果の過剰な追及
③完璧主義
③の完璧主義とは、製品が完璧になるまで市場に出さないという考え方である。世界の開発の潮流はリーンスタートアップ(100%完成していなくとも素早く市場に投入する)になっているため、完璧主義だと先行者利益を得られない(後発の物まね製品になる)。
②は、日本に限らず欧米企業にも見られる傾向(弊害)であるから、①と③が日本の特徴(欠点)ではないかと思われる。
なお、リスク回避思考は企業に限らず個人にも同じ傾向が見られる。個人の金融資産総額の半分がいまだに現預金だというのもリスク回避思考によるものだろう。
金融庁もこれを問題視しているようで、2019年2月2日、読売新聞デジタルに以下の記事が載っていた。
「金融庁は、日本で個人の金融資産が現預金に偏り、投資にお金が回っていない背景に、金融機関に対する消費者の不信感があるとみており、実態把握が必要と判断した」
「アンケートは今年度内にも、金融商品を購入した全国の数千人を対象に、インターネットと郵送で行う。金融機関を検査、監督する金融庁が、その顧客に直接調査を行うのは異例だ」
(金融庁は個人の金融資産が現預金に偏っている理由を「金融機関に対する消費者の不信感」と考えているようだが、本書によればその理由は「極端なリスク回避思考」ということになる。)

本書では、日本の社会の特徴として「同調圧力が強い」ことが再三指摘されている。これが本書のもう一つのテーマ(裏テーマ)だそうだ。
同調圧力とは、「何事も目立たず、周囲と同じことをしなければならない」という社会的圧力である。職場などで周りと群れる、つるむ(職場仲間と一緒に昼食をとらないと仲間外れになる、あるいは変わり者とみられる)、海外留学でも日本人同士の群れを作る傾向があるようだ。
このような思考は学校生活が始まる頃から形成されるようだ。「学校生活においてもいくつかの排他的な集団が作られ、個人はいずれかの集団に属さないと平和な学校生活を送れない。そして、その集団内では、周りと同じであることが要求される。」
日本の企業は無駄な会議や打合せが多く、それが(主にホワイトカラーの)生産性向上の阻害要因になっている。これなども、会議と称して群れること(責任を分散すること)が心理的背景にあるそうだ。
「さまざまな価値観がぶつかり合うところでイノベーションが生まれる」が正しい命題だとしたら、同調圧力はイノベーションにとっても弊害しかないということなのだろう。

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