意味を理解するとは何か(Part2)
現在のAIは「ことばの意味を理解できない」と言われている。それでは、「意味を理解する」とは、どのような事態で、どのような仕組みなのか? 今回は認知言語学の切り口から考えてみた。 参考にしたのは、「はじめての認知言語学」(吉村公宏:著、研究者)という認知言語学の入門書である。認知言語学は、人間の認知のはたらきと言語が密接に関係しているという立場の言語学である。 はじめに、認知とは物を見たり感じたるする感覚のはたらき(いわゆる五感に、運動、平衡、内臓感覚を加えた八感)と、それを基に記憶、学習、判断をする精神のはたらきのことである(本書の定義より)。 この定義から明らかなように、感覚器官を含む「身体」を持たないAI(人工知能)が「ことばの意味を理解する」のは不可能に近い気がしてくる。 それならば、センサーと身体を持つAIロボットIなら可能だろうか? いや、人間の精神活動には、喜びや怒り、悲しみなどの「感情」が含まれているから、AIロボットでも難しそうだ。具体例として、「怒り」、「立腹」、「憤怒」、「憤激」、「逆上」という言葉(記号)を考えてみる。人間は、これらの言葉(記号)を見たり聞いたりしたときに、その記号に対応する概念(イメージ)を想起することができる。この例では「怒り」が上位概念で、それ以外の「立腹」以下は下位の概念である。 人間は、これらの記号の違いを、概念の違いとして、感情の違いとして、認識することができる。しかし感情を持たないAIロボットがこれらの記号から概念(およびそれぞれの違い)を形成するのは難しそうだ。もう一つの例として、頭を使い過ぎて疲れを感じたときの表現を考えてみる。(本書にある例として)「頭がさび付いて回転しない」や、「(忙しくて)目が回る」などの表現がある。 これらの表現はメタファーである。本当に頭や脳がさび付いたり、回転するわけではないし、目玉が回るわけではない。これをAIロボットに教えるには、まずメタファーという概念を教えなければならない。 しかし、それでも、コンピュータであるAIは、原理的に頭を使い過ぎて疲れるという「感覚」を知ることは出来ないだろう。AIの場合、その頭脳であるCPUをフル回転すれば電力を消費するだけである。よって、AIロボットは「頭を使いすぎて疲れる」とは、「CPU使用率の高い状態が続き、電力を異常に消費する状態」だと理解するかもしれない(これは半分冗談であるが・・・・)。 このように、AIロボットが感覚や感情に関わる「ことばの意味」を理解することはかなり難しいだろうと推測できる。 本書には「意味」の定義が出ている。 「合成性の原理」というのも興味深い。合成性の原理とは、「文の意味は各単語の意味を足したもの」という考え方である。認知言語学では、表現の意味を考えるとき、この原理は採用しない。 AIロボットが「ことばの意味を理解する」うえで障壁になるものの一つが、「ことばの多義性」である。本書にも、「コンピュータは多義語が苦手である。一方、詩人は多義語が得意である」旨の指摘がある。 構文のなかにも多義と類似したものがある。 多義語とは異なるが少々厄介なものにメトニミーがある。例えば、「ヤカンが湧いている」がそれである。これは正しくは「ヤカンの湯(または水)が湧いている」であるが、私たち人間はフツーに「ヤカンが湧いている」で通じてしまう。 多義語でもメトニミーでもないが、少々厄介にみえるものもある。本書では色彩名(名詞)と、その形容詞化が紹介されている。「赤い」や「白い」とは言うが、「緑い」や「茶い」とは言わない、という類の話である。 結局、意味を理解する仕組み(意味解釈の機構)はまだ良く分からないけれども、本書を読んで、自然言語が持つ奥深さと、意味を理解する上で何が問題になるのかが少しは分かってきた(気がする)。 |
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