SEと文章力(Part2)

2023年7月13日

SEは意外と文章を書く機会が多い。要件定義書(要求仕様書)や基本設計書などの設計書類、画面操作マニュアルなどのマニュアル類、テスト仕様書、移行計画書・・・などなど。このほかに、客先や社内に対する報告書や、連絡票、質問票などがあるだろう。このようなことから、前回、文章を書く際の留意点を幾つかの書籍を参考に紹介した。(こちらを参照
今回は国語力を高める方策の一つとして、「大人のための国語ゼミ」(野矢茂樹:著、山川出版社)を紹介する。なお、本書によれば私自身の国語力には幾つかの問題点がありそうなので、私の書いたブログ記事は国語力という観点からは参考にならないことを最初にお断りしておく。大人のための国語ゼミ
本書によれば国語力とは、「きちんと相手に伝わる文章を書く能力。文章を的確に理解する能力」である。そして、この国語力を高めるための方法がテーマ別に書かれており、さらに各テーマに練習問題がついている。
練習問題を解くことで、理解が深まるだけでなく、自分の弱点がどこにあるのかが分かる仕掛けだ。皆さんも自身の国語力を計測するために、本書の練習問題に取り組まれることをお勧めする。私自身が難しいと感じたのは「文の接続(文と文のつなぎ)」である。実際、練習問題で躓く箇所がいくつかあった。
「接続表現の代表的なものは「だから」や「しかし」のような接続詞であるが、他にも「ので」や「から」といった接続助詞や、あるいは「要約すれば」とか「その結果」のように一語ではなく句で示される場合もある」文の接続がいかに重要であるか、著者は次のように説いている。
「文章を書くとき、自分では内容が分かっている。しかし、読む人はそうではない。ここに文章を書く時の落し穴がある。書き手にとっては歩きなれた道だろうが、読み手にとっては初めての道なのである。だから道しるべを立ててあげなければならない。文章における道しるべ、それが接続表現である」

文の接続表現は、大きく三つのグループに分類できるそうだ。
・第一グループ:付加・選択・換言・例示
・第二グループ:対比・転換・補足
・第三グループ:条件・譲渡条件・理由・帰結
各グループの説明は本書を参照されたい。

文の接続に関する練習問題は、落し穴が仕組まれていて面白い。著者は、文書を読む時の態度を「語調モード」と「理解モード」に分けている。「語調モード」とは、文章の意味を深く考えないで読むことをいう。一方、「理解モード」はその名の如く、文章の意味と、意味のつながり(論理)を理解しながら読むことを言う。
練習問題の文章は、「語調モード」で読むとあまり違和感を感じないが、「理解モード」で読むと文と文のつなぎがおかしいことが分かる。「語調モード」とは、(多分)文章の語感のことを言うのだろう。

文章を書くときは「相手のことを考える」ことが重要だ(本書ではこれが一番最初のテーマに設定されている) 。
私たちは何気なく「語調モード」で文章をつなぐことがあるが、文章の論理展開に従って適切な接続表現を選択する必要がある。
「相手のことを考える」という観点では、つなぎだけでなく、どのような単語(ITに固有な名詞)を選択するかも重要だろう。IT技術者はとかく業界用語や略称(ジャーゴン)を多用する傾向がある。文書の読み手が情報システム部門の方であれば問題は少ないだろうが、相手が利用部門や経営層の場合は内容を理解してもらえない可能性がある。
文書を読んだ相手から、「専門用語の羅列で良く分からない」と言われた経験を持つ人もいるだろう。
「この文書を読むのは誰なのか」を考えて単語を選ぶ必要がある。また、難しい用語(概念)を説明する場合は、メタファーを用いるなどの工夫も効果的だろう。

接続表現に関して、文章を安易に「が」でつなぐことは慎むべきだという。
「「が」という助詞は逆接以外のつなぎにも用いられ便利である反面、接続関係が曖昧になる。他の接続表現と組み合わせて使うか、使わない方が良い」

前回のブログ記事でも書いたが、一つ一つの文章は簡潔に短くした方が良い。
「明確で分かり易い文章を書くのであれば、一つひとつの文はなるべく簡潔なものにした方が良い。そして、それを的確な接続表現でつなぐ」

実践的に国語力を高める方策としては、文章を決められた字数内で要約する訓練が有効だそうだ。
「文章を読む時は幹と枝葉を区別しなければならない。・・・幹と枝葉を区別することは、自分で文章を書く時にも決定的に重要な力となる。その区別を無視して書くと、たんに藪のような文章になってしまうだろう。要約の練習は国語力を鍛える最も効果的な方法である」

本題からは逸脱するが、本書に面白い逸話が載っていた。日本語の「はひふへほ」は「パピプペポ」と発音されていたらしい、というのだ。
室町時代のなぞなぞに「母には二度あえど父には一度もあはず」というのがあり、その答えは「唇」だと考えられている。これは、当時は「母」を「パパ」と発音していた(と推測される)からだそうだ(唇が二回合わさる)。
父ではなく、「母」を「パパ」と発音していたというところが面白い。

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