リクナビ「内定辞退率」問題を考える
(2019年8月の)複数のメディアによると、 就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、就職活動中の学生の「内定辞退率」を 推定し、企業に提供していたことが判明。利用者をはじめ世間に波紋を呼んだ。 「内定辞退率」とは、 サイトに登録した就職活動中の学生の行動履歴データなどを基に、ある企業について、学生がその企業からの内定を辞退する確率(5段階評価)をAI(人工知能)で推論したもののようだ。 問題になったのは、リクルートキャリアが「内定辞退率」データを企業に提供する際、本人の同意確認が不十分だった点である。同社は、学生がサイト登録する際、同社のプライバシーポリシーおよび利用規約に同意したうえでサービスを提供していたと説明した。しかし、政府の個人情報保護委員会などから「利用規約が学生に伝わりにくい」などの指摘を受け、7月末でサービスを一時中止する事態になった。 なお、その後の報道では、リクルートキャリアは本人の同意を得ずに情報を提供していたことが判明し、このサービスを廃止するようだ。内定辞退率は、おそらく、機械学習(ディープラーニングなどを含む)で推論したものだと考えられるが詳細は明らかにされていない。リクナビが提供するサービス内容の説明では、 「当該採用企業における前年度の応募学生のリクナビ上での行動ログなどのデータを解析の対象に、その企業に対する応募行動についてのアルゴリズムを作成します。そこに、今年度に当該採用企業に応募する学生の行動ログを照合、その結果を『採用選考のプロセスが途絶えてしまう可能性』として企業に提示することで・・・・」 となっている。 上記説明にある(何らかの)アルゴリズムで推論した内定辞退率が、どの程度「確かなもの」なのか分からないが、ここまでの説明でいくつかの疑問が湧いてくる。大別すると法的な課題と、推論に関する技術的な疑問である。 ①学生は自身のデータ、すなわち自分の内定辞退率を知ることができるのだろうか?(知る権利) ②自身のデータである内定辞退率に納得できない場合、このデータを削除するよう依頼できるのだろうか? あるいは、利用規約に同意したことを撤回できるのだろうか。 ③自身のデータである内定辞退率について「なぜそのような評価になったのか」、データ提供事業者に説明を求めることができるのだろうか? (企業の説明責任。消費者の説明を求める権利。説明可能なAI。) ④(機械学習で推論したと思われる)内定辞退率について、そのアルゴリズムとデータ(教師データなど)に問題がないことを、提供事業者はどのようにして担保するのだろうか? データを第三者提供する場合に「事前に利用者の同意を得ること」や「後から同意の撤回が可能なこと」などは、「同意管理」と呼ばれるものである。 リクナビのサービスは一種の「情報銀行」とみることができる。情報銀行とは、消費者が自身の行動履歴などのパーソナルデータを企業に提供する代わりに、何らかの対価を受け取る仕組みである。 匿名加工情報については、2013年、JR東日本が交通系ICカード「Suica」の乗降履歴データを第三者(日立製作所)に販売したことで、利用者やマスコミから大きな反発を受けた事件が有名である。 今回問題視されたリクナビのサービスは、「データとデジタル技術を活用して新しいサービスを提供している(競争優位を確立している)」という点で、昨今話題のDX(デジタルトランスフォーメーション)と見ることもできる。(リクナビは競合するマイナビと差別化し、競争優位を確保するためにこのサービスを開始したようだ) |
|
2019年12月 追記: 2019年12月13日、政府の個人情報保護委員会は、個人情報保護法の改正大綱を発表した。リクナビが就活生の内定辞退率を予測、販売した問題を受け、Webの閲覧履歴などの扱いを整理する。・Cookie(クッキー)情報について、第三者に提供すると利用者個人が特定される場合は、利用者の同意を取り付けることを義務化する。 ・個人がデータの利用停止を求められる「利用停止権」を拡充する。 ・本人を直接特定できないように情報を加工した「仮名化情報」を新設し、企業のデータ活用を推進する。 なお、「匿名化情報」は個人の特定が不可能な状態のもの、「仮名化情報」は追加情報がないと個人を特定できないもの、と区別するようだ。 |
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません