ITロードマップ 2019年版

技術の進歩や変化が激しい今日、5年後のIT(情報技術)の技術動向を予測するのは難しいことだと思う。この困難な予測に挑戦しているのが、
「ITロードマップ 2019年版 情報通信技術は5年後こう変わる!」(著者:野村総合研究所ほか、発行:東洋経済新報社)
という書籍である。ITロードマップ
(しかし、)この書籍に登場する技術は、現在の技術の延長線上のものがほとんどである。確かに、5年くらいのレンジであれば、今現在萌芽期にある技術を対象にして、その5年後の成長・成熟した姿を描くことは可能だろう。具体的な例を取り上げると「量子コンピュータ」がある。
量子コンピュータは、2011年にカナダのD-Waveシステムズがイジングマシン方式/量子アニーリング方式の量子コンピュータを開発・販売したことで脚光を浴びた。一方、量子ゲート方式の量子コンピュータはそれよりもずっと以前から研究・開発が行われているが、デコヒーレンス問題などの障壁があって本格的な実用化には至っていない。
量子超越性(現在のスーパーコンピュータの性能を超える)についても未だ達成できていない。さらに、「汎用量子コンピュータ(現在のコンピュータのような汎用性を有する量子コンピュータ)」に至っては、その実現は今後10年以上先になるだろうと言われている。
このように、量子コンピュータに関して言えば、今後5年くらいのレンジで「どこまで到達できているか」を予測することは、ある程度可能だろう(もちろん、到達点が前倒しになる場合もあるだろうし、後ろ倒しになる場合もあるだろう)。
一方で、予測が難しい技術・製品というのもあるのではないだろうか。ここ2~3年で急速に注目を集めている技術・製品にRPA(Robotic Process Automation)がある。働き方改革や人手不足解消の手段として企業の関心も高いようだ。RPAがここまで普及することを、果たして今から5年前(2014年ころ)に予測し得ただろうか?
これと同じように、今はほとんど注目されていない技術や製品が、5年後に注目されているという可能性はあるだろう。そして、この手の予測は非常に難しいだろうことは容易に想像がつく(実際、本書にもこの手の技術・製品はほとんど見当たらない)。 

本書で「5年後の重要技術」として紹介されているのは以下の5つである。
・エッジAI
・データサイエンス・プラットフォーム
・非金融分野のブロックチェーン活用
・5Gと次世代ワイヤレス技術
・ドローン
エッジAIとは、AI(人工知能)をスマートフォンや産業用機械などのエッジデバイスに組み込んだものである。AIをクラウド側でなく、エッジ側に組み込むことで、自律性とデータのセキュリティ、データの主権が確保できる。
ブロックチェーンや5G、ドローンが今後の重要技術であることは、(多くの人にとって)想定の範囲内であろう。

「今後5年の重要技術トレンド」では、「XAI(説明可能なAI)への要請」、「RPAからIPAへの進化」、「AIOps(AIとDevOpsの融合)」、「DX技術の民主化」、「チャイナITの進展」、「キャッシュレス決済」、「レジなし店舗」があげられている。
これらの技術も、今現在、何らかの形でメディアに取り上げられることが多い技術だと感じる。このうち、XAI(Explainable Artificial Intelligence:説明可能なAI)は特に重要な技術だろう。現在の機械学習(深層学習や深層強化学習などを含む)の問題点は、「AIがなぜそのような(推論の)結果を出したのか、その理由を明確に説明できない」ことだと言われている。推論の過程がブラックボックス化しているわけだ。
これは、企業の採用活動にAIを利用する場合や、投資判断にAIを利用する場合に問題となる。さらに、医療や自動運転など人の生死にかかわる領域にAIを活用する場合はなおさらである。企業は、消費者の「説明を求める権利」に答えられなくてはならない。
私はAIの専門家ではないので詳しいことは分からないが、XAIの開発は結構大変だろうことは想像がつく。深層学習のパラメータは大量である。ハイパーパラメータのような人為的(恣意的?)なパラメータも存在する。さらにパラメータの数を減らすための(畳み込み演算などの)技術も使われている。
このような状況下において、各パラメータが分類にどのような影響を与えたのかを探ること、およびその妥当性を検証することは容易ではなさそうだ。
さらに、学習に使うデータ(教師データ)に偏りがある場合には、不適切な答えを推論することもあり得る。

本書には、IT系メディアの記事でもあまりお目にかからない技術というのがいくつか紹介されている。
先に挙げた量子コンピュータの分野では、NISQ(Noisy Intermediate-scale Quantum)コンピュータが紹介されている。NISQコンピュータは、2018年にその概念が提唱され、ビジネス適用に向けた議論が活発化しているそうだ。
NISQコンピュータは、ノイズの影響を排除しない、すなわちノイズの影響によって計算誤差が発生しやすいが、同時並列計算を行える量子コンピュータのことである(ノイズというのは、多分、デコヒーレンス問題のことだと思われるが不詳)。
NISQの特性を活かした分野として量子化学計算への期待が高い、としている。

本書の3章「複合的なITの活用による新サービスの可能性」で取り上げられているサービスのなかで、特筆すべきは「情報銀行と信用スコア」だろう。
情報銀行とは、消費者が自分の行動履歴や購買履歴などのパーソナルデータを企業に提供する代わりに、何らかの対価を受け取る仕組みであり、「個人データ銀行」と呼ばれることもある。この分野では、2018年9月、DataSignが運営する情報銀行「paspit」がサービスを開始している。
信用スコアは、様々なパーソナルデータをAIで分析して個人の信用力を数値化(スコアリング)するサービスである。この分野では、中国アリババグループの関連企業が、スマホ決済アプリであるアリペイに搭載した「芝麻信用(ジーマクレジット)」が有名である。
これらのサービスは、パーソナルデータという機微なデータを扱う可能性が高いから、これらのサービスに抵抗感を持つ消費者もいるだろうことは容易に想像がつく。果たして、日本でどこまで受け入れられるか、未知数の部分もある。ただ、GAFAなどのプラットフォーマが個人情報を収集してマーケティング等に活用している現状を鑑みると、日本の国内企業の競争力強化という観点から、政府や企業が力を注ぐテーマではある。

本書の4章には「デジタル時代のセキュリティ」と題して、デジタルビジネスにおけるセキュリティ対策(セキュリティ計画やセキュリティ設計等を含む)の指針が書かれている。

本書は、今後どのような技術やサービスが進展するのか、全体を俯瞰するには良い図書だと思う。個人的には(5年後には)、現在のAI(人工知能)という呼称は、機械学習(ディープラーニングなどを含む)という呼称に改めていくべきだと思う。人工知能などと言うから過大な期待や誤解が生まれていると感じることがある。私は詳しいことは分からないが、現在主流の画像認識や音声認識、自然言語処理と呼ばれている分野も、その中核技術は機械学習のようだから、そうであれば「機械学習(あるいはディープラーニング)」技術で良いのではないだろうか。
最近(2019年7月28日)朝日新聞に経済同友会前代表幹事の方の談話(記事)が出ていた。
いわく、「半導体の技術は微細化し、量子コンピュータとAIを組み合わせると、AIがいずれ感情や感性を持つようになるかもしれない。曲も作れるし、絵も描けるようになる。やがてAIが人間を凌駕する時代が来ます」
なんで、量子コンピュータとAIを組み合わせるとAIが感情を持つようになるのか、(根拠が書かれていないので)良く分からないけれど、どうも誤解があるように思えて仕方がない。(確かに、人間の意識の解明には量子力学が必要だという識者はいるようだが)
AIという呼称を機械学習技術という呼称(IT技術の一分野)に改めれば、このような誤解も生まれまいに・・・。

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