「ポリヴェーガル理論入門」ステファン・W・ポージェス:著

「ポリヴェーガル理論入門 心身に革命を起こす『安全』と『絆』」(ステファン・W・ポージェス:著、花丘ちぐさ:訳、春秋社)は、表題のとおりポリヴェーガル理論を一般の素人にも分かり易く解説した書籍である。
私は本書で初めてこの理論を知った。さらに私はセラピストでもないから本書の内容に関しては全くの素人である。
よって、本稿は本書に関する私的な感想である。ポリヴェーガル理論
はじめに、ポリヴェーガルという用語について、本書から引用しておく必要があるだろう。
「ヴェーガル」とは迷走神経のことであり、「ポリヴェーガル」は複数の迷走神経経路のことである。
迷走神経は副交感神経系の主要な神経系で、私たちの脳と身体を機能的に結び付けている。迷走神経は、脳から内臓へと信号を送るだけでなく、内臓から脳へも信号を送っている。トップダウンとボトムアップの両方の機能に関与している。
ポリヴェーガル理論は、迷走神経を介して私たちの脳と身体が如何にコミュニケーションしているかを論じている。
本書では、境界性パーソナリティ障害や、統合失調症、抑鬱症、不安症、自閉症と、神経系や身体との関係を論じている。
しかし、本書の内容はこれらの障碍に関して理解を深めることだけが目的ではないと思う。私たちが他者と社会的交流を行ううえで重要なことを示唆している。
私たちが他者と社会的交流を行うときには、相手の心身の状態を知ることが重要であるが、これは単なる認知の問題ではない。
本書には以下の指摘がある。
「私たちはどんな行動にも動機があると考え、その行動について良いか悪いかを評価する世界に住んでいるようだ。行動が良いか悪いかを評価し、生理学的および行動学的状態を調整している『適応機能』については理解しようとしない」
つまり、相手の行動を、道徳的、倫理的に、良いか悪いかで判断するだけでは十分でないケースがあることを示唆している。
相手がなぜそのような行動を取ったのか、その背景にある神経系や身体の適応機能にまで考えを及ぼす必要がある、ということだろう。
「私たちが住む世界は認知機能にばかり焦点を当て、認知と身体的体験との統合がなされていない」 

本書は、交感神経や迷走神経のはたらき、そして社会的交流を可能にする(進化の過程で哺乳類に備わった)新たな自律神経枝のはたらきを解説している。
このあたりの仕組みは素人の私には難解で、十分に理解できていないから、興味のあるか方は本書、および本理論の解説書などを当たって頂きたい。
本書には、今日の身体/器官に対する外科的、あるいは内科的処置に関して警鐘を鳴らしている箇所がある。
「昨今の医学界では、身体の各器官は、それぞれが独立して治療できると考えられているかのようで、身体の諸機関が統合的/相互作用的な自律神経系の一部であるとはみなされない傾向にある」
さらにトラウマ・セラピーなどの臨床処置についても、
「今の世界は脳中心、さらに遺伝子中心という、この2つに焦点を当てる傾向がある。今までのような方法で脳の構造や脳の機能に焦点を当てていると、身体感覚が重要だということを見逃してしまう」
と注意喚起している。

昨今、デジタル化という言葉を見聞きすることが増えた。
「デジタル化」と「IT化」とでは何が異なるのか、私には良く分からないが、この点は別の機会に検討することとして・・・。
国の政策レベルでは、「デジタル社会形成基本法案」、「デジタル庁設置法案」などのデジタル改革関連6法案が2021年2月に閣議決定された。これらの法案は2021年9月から順次施行されるようだ。
法案の目玉は、社会のデジタル化を遂行する司令塔組織として「デジタル庁」が新設されること、および政府主導で国と自治体の統一情報基盤が整備されること、であろう。
小学校ではギガスクール構想と称してタブレット端末などを全生徒に配布する動きがある。
スマートフォンを利用する子どもたちの低年齢化の傾向もうかがわれる。
私たちが直観的に感じているように、デジタル化は良いことばかりではない。そこには負の側面もあるはずだ。
本書では、(主に子どもたちが)タブレット端末を利用することによる弊害を指摘している。
「子どもたちはiPADを見ていて、友だちや先生を見ていない。これでは、子どもたちは社会交流システムを促進する神経回路を訓練することができない。子どもたちは、困ったときに自己調整したり、他者と協働調整する能力を獲得できない。行動や生理学的状態を調整する神経回路を子どもの時に使っておかないと、それらの神経回路はうまく育たない」
私たちはデジタル化の弊害にも考えをめぐらす必要がありそうだ。

 

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