セバスチャン・スン「コネクトーム」
「コネクトーム」(セバスチャン・スン:著、青木薫:訳、草思社)はサブタイトルに「脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか」とあるように、脳の配線(脳に含まれるニューロンの配線)に関連する研究(現状と将来展望)を解説した書籍である。 最初に「コネクトーム」の説明を、訳者あとがきを参考に記しておく。 (脳に含まれる)ニューロンの接続の総体が「コネクトーム」である。コネクトームと脳の様々な機能の関係を調べようとするのが神経科学の新領域、コネクトミクスである。脳機能の研究は、生物学分野における最大にして最後のフロンティアだと言われている。 脳のニューロンは約1,000億個あり、ニューロンが繋がり合うシナプスの数は160兆個にのぼるというから、「ニューロン接続の全地図を描くということが、如何に壮大な計画であるか」は、私たち素人でも想像がつく。 本書を読む限り、この壮大な計画は緒に就いたばかりである。今後数十年にわたる研究が必要となるようだ。素人である私は思う「ニューロン接続の全地図が描ければ、本当に人間の「こころ」の仕組みが分かるのだろうか?」 先に紹介した「ポリヴェーガル理論入門」(ステファン・W・ポージェス:著、春秋社)で、著者は次のような指摘をしている。 「今の世界は脳中心、さらに遺伝子中心という、この2つに焦点を当てる傾向がある。今までのような方法で脳の構造や脳の機能に焦点を当てていると身体感覚が重要だということを見逃してしまう」 本書の著者であるセバスチャン・スンは、明らかに脳と遺伝子に注目している研究者だと言えそうだ。 人間はいろいろなことを経験する(学習する)なかで、ニューロンの配線を変えていくが、その変化は大きく4つに分類されるそうだ。 ニューロンの接続に関して重要なことは、「ニューロンは「階層的に」組織化されたネットワークとして構成されている」ことである。さらに、本書ではコネクトームを以下の3段階に区別している。 私たちが脳のはたらきで最初に思い浮かべるのは、「記憶」と「学習」ではないだろうか。 |
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訳者あとがきによれば、日本でも「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」という研究プロジェクトが、2014年にスタートしているらしい。 Webを検索してみるとこのプロジェクトの概要が記されている。 「平成26年(2014年)度より10年計画で開始された大型プロジェクト「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト(以下、革新脳)」は、前半5年間では「マーモセット全脳回路に関するマクロレベルの構造と活動のマップの完成」を目標とした研究が推進されました。 令和元年(2019年)度にスタートした後半5年間では革新脳の目標を達成するために課題、実施体制等の見直しを行い、ヒトの精神・神経疾患克服に向けたさらなる成果獲得、国際的に競争力のある、マーモセット脳構造・機能マップデータベースの完成を目指し、研究開発を推進しています」 ここで、マーモセットとは、 「コモンマーモセット(以下マーモセットと略す)はブラジル原産の霊長類である」であり、「脳神経疾患モデルや脳機能解析などに遺伝子改変マーモセットが応用され始めている」 「脳は大脳皮質の拡大で生じた霊長類に特異的な機能を持ち、認知機能、社会的行動などの脳高次機能に関してヒトと類似しており、認知科学などの脳高次機能の研究や、ヒト神経疾患研究、特にパーキンソン病、脊髄損傷、多発性硬化症などの神経変性疾患などのモデルとして用いられている」 とある。(出典:国立研究開発法人日本医療研究開発機構、公益財団法人実験動物中央研究所) |
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