「言語の起源」ダニエル・L・エヴェレット
「言語の起源 人類の最も偉大な発明」(ダニエル・L・エヴェレット:著、松浦俊輔:訳、白揚社)は、言語の発明(起源)と進化に関する論考である。 この分野に関して私は門外漢なので、以下の感想のなかには誤謬や不正確なところがあるかもしれない。その前提で読んでいただきたい。(言語の起源と進化に関わる研究分野として、著者は人類学、言語学、認知科学、古神経学、考古学、生物学、神経科学、霊長類学をあげている。著しく学際的な分野のようだ。) 話を進めるにあたり、最初に著者の立場を明確にしておく必要があるだろう。 著者は、言語は人類が「発明した」ものだとする立場である。 従って、言語は「突然変異」によって生じたとする説や、言語は生得的なものであるとか、何らかの本能であるという主張とは真っ向から対立する。 「突然変異説」は、言語の起源に関して影響力がある説であり、これはノーム・チョムスキーの研究に由来するそうだ。 (突然変異説に関する私の理解では)言語は進化の過程で突然変異的に生まれ、言語を理解するためのベーシックな仕組みは遺伝すると考えられている。 人間の脳(脳の機能の一部、あるいは脳のニューロンの配線)には、遺伝で引き継がれる部分があり、これがために幼児は母語を早くに獲得することができる、と考えられている。 いわゆる、「普遍文法」と呼ばれるものである(当然ながら、著者はこの説を支持していない)。著者は言語の発生と進化を考える際には、社会と文化、またその両方と個人の認知機能との相互作用を理解することが必須だという。 この著者の立場を明確に表現しているのが、「言語は決してすべてを表現はしない。文化がその細部を埋めるのである」という言説であろう。 これは、私たちが外国語を習得しようとする際によく言われることである。 例えば、英語を習得する際にはその背景にある英国の文化を知らないと正確な理解に至らない、ということが言われる。私たちの日常会話でも、私たちの文化に関わることが暗黙知として前提にされており、会話のなかの言葉だけでは正確に理解できないことがある。 AI(人工知能)には自然言語処理に関わる分野がある。 コンピュータに自然言語を理解させるうえで障壁になるものの一つが「常識」だという話を聞いたことがある。 私たちの文化のなかで常識になっていることは、会話のなかで言語化されない場合がある。あえて言語化しなくとも会話が成立する。あるいは、いちいち説明する必要がないからである。 コンピュータにはこの常識(文化的背景に含まれるもの)が欠如しているから、言語化されたものだけでは正しく理解できないのだという。 著者は「常識とはまさしく経験であり、獲得された文化的情報なのだ」と指摘している。 著者の説では、言語は100万年以上前のホモ・エレクトゥスに始まったという。 言語の進化については3つの仮説があるという。 IT関係者からみて興味深いのは、「脳はコンピュータではない」という著者の言説だろう。 「はじめての認知言語学」(吉村公宏:著、研究社)に、言語と文化の関わりについての解説がある。 「はじめての認知言語学」には、「合成性の原理」という仮説の解説がある。 以前に「チョムスキーと言語脳科学」(酒井邦嘉:著、集英社インターナショナル)という書籍の感想を記したが、酒井邦嘉氏の考えとダニエル・L・エヴェレットの考えは真っ向から対立していて興味深い。 |
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