ビットコイン・スタンダード
「ビットコイン・スタンダード お金が変わると世界が変わる」(S・アモウズ:著、練木照子:訳、ミネルヴァ書房)は、デジタル通貨/暗号資産としてのビットコインの特徴と可能性、将来展望、およびその根拠となる理論的背景を論じたものである。 本書は10章から構成されているが、7章までは貨幣の歴史と経済学を中心に論じている。既にビットコインについて技術的側面をある程度理解している読者は、10章「ビットコインについてよくある質問」を読むと良いと感じた。 例えば、ビットコインに関する重要な懸念事項のひとつ「スケーリング(トランザクション処理能力)」に関する考察が述べられている。 本書の概要をいくつか紹介するが、私は経済学については素人同然なので、本書に登場する経済学に関する論考の正否は判断できない。 ひとつ言えることは、本書は古典経済学派(オーストリア学派)の主張を支持する立場であり、ケインズ学派やマネタリズムはけちょんけちょんにこき下ろされている(かなり過激です!)。 例えば 「大学はケインズのような似非経済学者の理論を教え、財政支出はメリットばかりでデメリットはないという噓を広めた」 「就労経験のないケインズには貯蓄と資本貯蓄の意義も、この2つが経済成長の原動力であることも理解できなかった」 という具合である。 本書の前半で貨幣の歴史や役割に多くの紙幅が割かれているのは、デジタル通貨/暗号資産としてのビットコインが、 「貨幣が抱える問題、特に貨幣の市場性、健全性、主権にかかわる問題をデジタル技術で解決しようとするプロジェクト」 であり、その理論的根拠や歴史的背景を示すためであろう。 特に貨幣の主権という観点は強調すべき点であろう。 「ビットコインは電子決済手段でありながら、信頼できる第三者機関の仲介を排除することに成功した」 これは、現在の法定通貨の貨幣価値や、供給量、金利が、市場機能ではなく政府の意向で決まっていることを問題視しているからである。 実際、今の日本の財政状況を見ても、日本銀行による超低金利政策が長期化しており(にもかかわらず消費者物価は目標未達のままである)、国債を財源とする財政支出が拡大している(国の借金は増えるばかりだ)。 そして、これらの財政政策は政府(および日銀)の意向で決まっている。 ビットコインは政府支配の及ばない貨幣である。 「ビットコインがブロックチェーンを採用したのは、・・・信頼できる第三者機関である仲介事業者を決済プロセスから排除するためだ」 オーストリア学派であるミーゼスは、健全な貨幣の必要条件のひとつに「政府の支配権限が及ばないこと」をあげている。ビットコインはこの健全な貨幣の必要条件を満たしている。本書によればビットコインという用語は、関連する4つの別物の呼称である。 ①デジタル通貨の発行および送金のためのネットワーク ②ネットワークで発行される独自のデジタル通貨 ③ネットワークの一部であるブロックチェーンというビットコイン所有権とその移転を記録する公開分散型台帳 ④(ビットコインコアと呼ばれる)ビットコインソフトウェアというオープンソース・ソフトウェア(OSS)開発プロジェクト ビットコインの特徴の一つに「総供給量が2100万に固定されている」点があげられるだろう。 ビットコインの今ひとつの特徴はスケール(取引処理能力)に限界がある点であろう。 |
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以下、本書に関する個人的な感想を述べる。 まず、ビットコインは貨幣か否か(すなわち、貨幣ではなくて投資または投機の対象か)が問題になると思う。 本書では貨幣の機能として、①交換手段、②価値貯蔵手段、③価値尺度、をあげている。 しかしそれ以前に、貨幣は「みんながこれは貨幣である」と思うから貨幣として存在し得るのである。 現在日本に流通している(日銀発行の)紙幣や硬貨は、「国民がみんな、これは貨幣である」と思うから貨幣として、交換手段となり、価値貯蔵手段となり、価値尺度として使えるのである。 これに対してビットコインはどうだろうか? ビットコインは貨幣(デジタル・キャッシュ)だと考える人たちがいるが、一方でこれに懐疑的な見方をする人もいるはずだ。ビットコインを投資・投機の対象(もの)とみるとき、総供給量が固定されている点は評価されて良いと思う。 しかし、価値貯蔵手段として長期保有を考えるとき、ビットコインが良いのか、金(GOLD)の方が良いのか、迷うと思う。ビットコインは、現時点ではまだ価格変動が大きいことも考慮する必要がある。 価格変動が大きいと価値尺度には使えない。 この点は本書にもあるとおり、今後ビットコインを長期保有する人が増えてくれば価格変動の幅は小さくなるだろう。これにともなって、さらに価値貯蔵手段として保有する人が増える可能性がある。 ビットコインの将来性にも考えをめぐらせる必要がある。 本書に描かれているとおり、ビットコインにはデジタル通貨/暗号資産として大きな可能性がある。しかし、投資や投機の対象としてビットコインを考える際は、その仕組みとリスクを理解したうえで検討するべきだろう。(当たり前のことですが、最終的には自己責任です) |
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2022年1月30日 追記:
暗号資産に関する最近の動向を記す。出典は朝日新聞(2022年1月22日、1月25日)である。 |
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