小規模企業の法人税申告(H31年度)

2023年7月6日


法人税のうち、平成31年度(令和元年度)の税制改正の主なもの(特に小規模企業にも関係するもの)を下表に記す。


法人税の主な改正事項(平成31年度)
研究開発税制の見直し
・総額型について試験研究費の増減額の割合が5%超と5%以下で税額控除割合(中小法人は12%~17%)が異なるが、この5%が8%に見直しされた。
また、一定のベンチャー企業については税額控除の上限が25%から40%に引き上げられた。
法人税について、中小法人の軽減税率15%の特例の適用期限が2年延長された。
中小法人の設備投資関係
・中小企業者等が機械等を取得した場合の30%の特別償却または7%の税額控除の適用期限が2年延長された。
・商業・サービス業・農林水産業を営む中小企業者が経営改善設備を取得した場合の30%の特別償却または7%の税額控除の適用期限が2年延長された。なお、2%の収益力向上要件が追加された。
・中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の即時償却または7%の税額控除の適用期限が2年延長された。
特別法人事業税の創設
従来の地方法人特別税に代わり、特別法人事業税が創設された。
法人事業税の一部が分離され特別法人事業税として課され、課税標準は法人事業税の標準税率による税額とされる。
交際費課税の特例措置の延長(H.30年度の改正)
中小法人については、特例として、支出した交際費のうち800万円までが損金算入を認められる。
この特例は、平成30年3月31日までの措置であったが、適用期限が2年間延長された。中小企業者等の少額減価償却資産の取得価格の損金算入の特例の延長(H.30年度の改正)
中小企業者の少額減価償却資産の取得価格の損金算入の特例は、常時使用する従業員1,000人以下の中小企業者が30万円未満の減価償却資産の取得等をして事業の用に供した場合、減価償却資産の合計額300万円を限度として、全額損金算入(即時償却)を認める特例である。
この特例の適用期限が2年間延長された(令和2年3月31日まで適用期限が延長された)

対象

取得価格

償却方法

制限など

中小企業者のみ
30万円未満
全額損金算入
(即時償却)

合計300万円まで

本則
(全ての企業)
20万円未満
3年間で均等償却
10万円未満
全額損金算入
(即時償却)
法人税率

事業年度

区分

H.24.4.1

R.3.3.31
開始

中小法人
年800万円以下
0.15
年800万円超
0.232

特別法人事業税

区分
法人事業税
特別法人事業税
中小法人
7%
事業税額(所得割)の
37%

簡易課税制度の事業区分とみなし仕入れ率


事業区分

該当する事業

みなし仕入れ率
第1種事業
卸売業
0.9
第2種事業
小売業
0.8
第3種事業
農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業

0.7
第4種事業
第1種、第2種、第3種、第5種、第6種以外の事業(飲食店業等)
0.6
第5種事業
運輸通信業、金融業及び保険業、サービス業
0.5
第6種事業
不動産業
0.4
注意
平成28年1月1日以後に支払を受ける利子等については、都民税利子割(県民税利子割)は課税されない。これにより、法人税割からの控除の取扱いもなくなっている。
本コラムでは法人税申告書の概要を記載しているが、正式な情報は国税庁のサイトから入手して頂きたい。
また、法人税申告書は種類(様式)が多く複雑なので、詳細については別途解説書などを入手して読んで頂いた方が良いかと思う。
本稿では、法人税申告書の中核となる、別表4と別表5を中心に記載する。
別表4と別表5の目的を簡単に表現するならば、
・別表4は、税務上の税引き前利益(所得)を算出するためのもの。
法人税は、税務上の税引き前利益(所得)に税率を掛けて算出する。
・別表5(1)は、税務上の利益積立金の期中の増減を記載するもの。
・別表5(2)は、法人税等(法人税、県民税、市民税、事業税)の期中の増減(納税義務の発生と納税)を記載するもの。
だと言える。
別表4と別表5には関連があり、これを中心に解説している書籍には、「法人税申告書作成ゼミナール 清文社」などがある。
法人税申告書の構造に入る前に、ポイントになる用語を整理しておきたい。税務の用語は会計の用語とは異なっている。例えば、収益は益金に、費用は損金に対応しているが、それぞれ対象とする範囲が異なるので、用語も異なっている。
税務用語 会計用語 税務と会計の差異など
益金 収益 受取配当金などは、会計上は収益に入るが、税務上は益金にならない(益金不算入)
損金 費用 会計上交際費は全額費用になるが、税務上は交際費等の額のうち、飲食のために支出する費用の額の50%が損金に算入されない(但し、中小法人については損金算入の特例がある)。
また、減価償却限度超過額などは、会計上は費用であるが、税務上は損金にならない(損金不算入)。
所得 利益 益金-損金=所得
納税充当金 未払法人税等 同義(税務上、納税充当金は利益積立金の一つ。負債ではなく資本の扱い。)
利益積立金 利益剰余金 利益積立金には、上記の納税充当金が含まれる。
未納法人税等 (未払い法人税等) 納税義務が発生しているが、未だ納付していない税金。
税務上、マイナスの利益積立金の扱い。
決算時に計上する未払法人税等の金額を、納付義務のある税金と同じ金額で計上していれば、未払い法人税等と同じ。下駄を履かせて計上している場合は金額が異なり、納税充当金とも異なるので、区別している。
法人税申告書の構造、書き方を理解するうえでのポイント(留意点)を以下に示す。
法人税申告に関する留意点
損金算入の税金 法人税、県民税、市民税は損金にはならない(損金不算入)が、事業税は損金になる。消費税、固定資産税も損金算入。
事業税は現金主義会計 事業税は、現金支出が発生した時に損金になる。
よって、決算時に計上した期末の未払事業税は、翌期に損金処理できる。
中間納付の事業税を還付請求する場合 中間申告(予定申告)で納付した事業税が過大で、還付請求する場合がある。
この場合、上記のとおり事業税は現金主義会計の扱いなので、中間納付額の全額を損金に算入する。翌期に還付された時点で益金に算入する必要がある。
預金の利子から徴収された所得税 (法人の場合)預金の受取利息に対する税率は、所得税15%+復興特別所得税0.315%の合計15.315%。この源泉所得税は、①税額控除を選択する場合は、損金不算入、②経理上、租税公課として処理(損金処理)する場合は、税額控除は受けられない。
消費税 税込み経理をしている場合は、決算で未払い計上した消費税を当期の損金にできる。税抜き経理の場合は、翌期に損金処理をする。
(1)別表4
別表4の目的は、先にも記載したとおり税務上の税引き前利益(所得)を算出するためのものである。損益計算書の当期純利益に、加算と減算を行って、課税基準となる所得を求める。
会計上の収益、費用と、税務上の益金、損金とは一致しないので、所得は会計上の税引き前利益とは一致しない。
即ち、会計と税務の差異を加減算することで、所得を算出している。
① 加算するものは、主に損金不算入のもの
・減価償却超過額
・貸倒引当金繰入超過額
・法人税、都道府県民税、住民税
など

② 減算するものは、主に損金算入、益金不算入のもの
・前期の確定分の事業税
・受取配当金
など
(クリックで拡大表示)別表4の構造

(2)別表5-1
別表5-1は、利益積立金に関する記載がメインになっている。利益積立金は、会社が留保している税引後のお金に相当する。
利益積立金に該当する科目は、① 利益剰余金項目
株主資本等変動計算書に記載されている利益準備金と同義
② 税務否認項目
貸倒引当金超過額や減価償却限度超過額など、損金不算入となり会社に留保されているもの。別表4の留保欄に記載されるものが対象である。
③ 税金関連
用語説明に記したように、納税充当金(未払法人税等)は、利益積立金を構成する科目である。納税充当金から確定分の法人税等(未納法人税等)を差し引くことで、留保される金額を算出する。
注意点として、未納法人税等には確定分の事業税は含まれない。確定分の事業税は翌期の損金になるので、期末時点では留保金の扱いとなる。
別表5(1)の構造(クリックで拡大表示)

(3)別表5-2
別表5-2は、税金の納付状況と、納税充当金の増減を記載するものである。
別表5(2)の構造(クリックで拡大表示)

(4)別表の関連と記載順序
法人税申告書は種類(様式)が多いので、様式間の関連を把握していないと記載順序に迷う。
そもそも、法人税を計算する基になる所得の計算は、損益計算書の当期純利益からスタートしているが、法人税等の金額が求まらないと当期純利益は算出できないという、ニワトリとタマゴの関係にある。
従って、法人税等の金額が未だ定まらない状態の決算書、即ち税引前当期純利益から、税務と会計の差異を加減算して所得を算出することになる。
税引前当期純利益に、損金算入項目(損金処理をしていない、事業税の前期確定分と今期中間分など)を減算、損金不算入項目を加算すれば、税務上の税引前利益である所得が求まる。
なお、この段階の決算書には法人税等はもとより、未払法人税等(納税充当金)も未計上であるから、この部分の調整は不要である。

(クリックで拡大表示)

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Posted by kondo