日本で動画配信サービスは普及するか
アマゾンと、アメリカの映像配信サービス会社「Netflix」が、2015年9月から日本で映像配信(動画配信)サービスを開始することが報じられた。 Netflixは、インターネット接続できる環境があれば、PCやスマートフォン、タブレットなどからオンデマンドで映像を視聴できるサービスである。(Netflix対応のテレビでも視聴可能) Netflixは既に50カ国以上でサービスを展開しており、ユーザー数は6500万人を超えるという。日本ではソフトバンクがNetflixと業務提携して、申し込み受付から請求までをまとめて提供する。 料金プランは、ベーシックプランが月額650円(税別)、スタンダードプランが月額950円(税別)、プレミアムプランが月額1,450円(税別)である。 アマゾンジャパンが提供するのはプライム会員(有料会員)向けのサービスで、「プライム・ビデオ」という名称の映像配信サービスである。アマゾンやNetflixと同じように、オンデマンドで映像配信を行っているサービスには、dTV(NTTドコモ)、hulu、楽天SHOWTIMEなどがある。 日本では(NHKを除き)テレビは無料で見られるという感覚が根強い。従って、有料映像配信サービスの競合をテレビだと捉えると、「お金を払ってでも見たいコンテンツ」がよほど充実していないと広く普及するのは難しいと思われる。 この「お金を払ってでも見たいコンテンツ」が戦略上の重要成功要因であるという点は、BSやCSの有料放送でも同じである。BSやCSの有料放送と異なる点は、オンデマンドでコンテンツが提供されるという点である。 一方、競合相手はテレビではなく、スマートフォン向けに動画や映像を配信しているサービスと捉えるとどうだろうか? この場合のターゲットユーザーは、10代~20代の若者や、通勤途上でスマートフォンを愛用している20代~40代のビジネスマン、ビジネスウーマンと考えられそうだ。 「若者のテレビ離れが進んでいる」と言われるご時世、映像・動画をスマートフォンで見る人は、若い世代を中心に結構多いのかもしれない。 しかしその場合であっても、ネット上には無料で動画・映像を配信するサイトが数多く存在するから、やはり「お金を払ってでも見たいコンテンツ」が充実していることが普及のカギを握っていることに変わりはなさそうだ。 テレビやWeb上の動画サイトなど、無料でコンテンツを入手できるサービスが既に市場に浸透している場合、あらたに有料のサービスを普及させることは極めて難しい。 端的な例がWeb上の新聞コンテンツである。Web上の新聞コンテンツは、当初、紙の新聞を補うような形でサービスが始まった。はじめはほぼ全ての新聞社が無料でサービス(ニュース・コンテンツ)を提供していた。 その後、デジタル向けの独自記事が配信されたり、デジタルに特化したサービスが充実していく中で、次第に有料化の動きが出てきた。それでも、コンテンツの全てが有料化されたわけではない。まだ多くのコンテンツは無料で見ることが出来る。一度無料で始めたサービスを、途中から有料化していくのは難しい。 タダだと思われていたものが、長い時間をかけて有料になった(有料化に成功した)ものもある。 水やお茶である。かつて日本では水やお茶はタダ同然だと思われてきた。しかし昨今では水のペットボトルやお茶のペットボトルを購入するのは、日本でも当たり前の光景になった。 家庭で使う飲料水に関しても、ウォーターサーバーなどで購入する人が増えているようだ。もちろん水道水で十分だと考える人も多数いるだろうから、これらは水に「こだわり」を持った人から支持されているのだろう。 テレビの視聴率は、昔と比べると全体に低下しているようだ。視聴率のトップ10を見ると20%を超えるものは稀(まれ:NHKの朝ドラのことではない)で、人気番組であっても大抵の番組は10%台である。 これは(テレビ離れと)、映像コンテンツに対するニーズが多様化しているためだと推測できる。テレビは多チャンネル化が進み、映画専用チャネル、海外ドラマチャンネル、スポーツ専用チャネル・・・など、マーケットが細分化されてきている。 さらに、先ほども触れたように、テレビではなく、スマートフォンなどの媒体で動画や映像を見る人もいる。 このように考えていくと、有料の動画配信サービスが普及するためにはキラーコンテンツが必要であり、ジャンルなども市場を細分化したうえで、こだわりを持った人たちをターゲットユーザーにしていく必要がありそうだ。 Netflixは、自らコンテンツ製作も手掛けており、過去の代表作には「ハウス・オブ・カード」がある。アマゾンもNetflixもコンテンツの品揃えには自信を覗かせている。 日本の市場を考えるとき、今ひとつ考えておく必要があるのが高齢化の進展である。今後日本では益々高齢者が増えていく。高齢者がスマートフォンを操作して映像・動画を視聴している姿は想像し難い。 高齢者もターゲットに含めるのであれば、画面が大きく、操作が単純なことがポイントになりそうだ。そう考えると、テレビのスマート化が1つの解になりそうだが・・・・どうなのだろうか。(PCやスマートフォン、タブレットの映像・動画をテレビに配信(キャスト)する製品にクロームキャスト(Chromecast)がある。ただし、家庭内無線LAN環境が必要で、操作も単純とは言い難い。) |
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2018/7月 追記 上記ブログ記事を書いてから約3年が経過した。日経新聞デジタル(2018/7/13)に動画配信サービスに関する記事が出ていた。根強いファンが多いスポーツ番組をめぐって、動画配信サービス会社と衛星放送などの有料チャンネルの間で熱い戦いが始まっているようである。 「英パフォームグループのダゾーンは2017年からJリーグの10年間の放映権を2100億円で獲得したことをきっかけに日本での知名度が高まった。ホンダのチームが活躍する自動車のF1も配信。スマホで場所を選ばずに観戦できる手軽さも受け、新規加入者の数値は非公表だが「昨年を上回る勢いを保っている」」 「サッカーのロシアワールドカップ向けにNHKが提供を開始したスマホ向けのアプリがツイッターで話題となっている。競技場に設置されている複数のカメラアングルでリプレーを見ることができ、選手のデータやボールの支配率なども確認できる。(中略) NHKは2019年にテレビとネットの常時同時配信の実現を目指しており、W杯のアプリは実証実験にあたる。」 「総務省によると、日本人のテレビの視聴時間は2012年から16年までの5年間で9%減った一方で、ネットの利用時間は4割増えた。10代と20代ではネットの利用時間がテレビを逆転している。」 若者を中心にテレビ離れが進んでおり、放送局も生き残りをかけてネット配信に力を入れ始めている、と言えそうだ。 (あたりまえのことだが)ネット配信事業者のすべてが順調なわけではない。 AbemaTVは、2016年4月に開局した。2017年9月期の最終損益は191億円の赤字であるが、国内における動画配信サービス事業者としての地位の確立に向け、2018年度も引き続き200億円を投資する方針だという。適切なマーケットセグメントの選定と、そのセグメントに対して「お金を払ってでも見たいコンテンツ」を提供できるか否か、が成功要因であることに変わりはない。 |
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2018年8月追記 ネットフリックスをはじめとするOTT(Over The Top:高速通信回線を使う映像配信事業者)の状況や、それに対峙する国内テレビ局の状況などは、「テレビ最終戦争」(大原通郎:著、朝日新聞出版)に詳しい。 同書によれば、最近(2018年)の放送、映像メディアの状況は概略以下のとおりである。 「若者のテレビ離れ」とテレビ局の苦戦総務省・情報通信政策研究所の調査を元にすると、10代~20代の若者のテレビ離れが進んでいる。 FANGないしFAANGいま世界のメディアはFANGというモンスターの攻撃に飲み込まれようとしている。FANGとはフェイスブック、アマゾン、ネットフリックス、グーグルである。これにアップルを加えてFAANGと呼ぶこともある。 テレビ局の活路OTTが勢力を拡大するなか、テレビ局はどこに活路を見出すのか? |
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2019年1月 追記 ネットフリックスの快進撃続く 2019年1月19日の朝日新聞記事によると、 ネットフリックスの有料会員数は日本を含めた全世界で、前年比26%増の1億3926万人に達した。米国以外の伸びが大きく、その要因として、各国の市場に合わせたコンテンツ提供、および同社のオリジナル映画の広がりをあげている。 ネットフリックスは業績も好調。2018年度決算は、売上高157億9434万ドル(前年比35%増)、純利益は前年の2.16倍の12億1124万ドルであった。 |
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2019年11月 追記 アップルが動画配信「Apple TV+」を開始 アップルは2019年11月2日、新しい動画配信サービス「Apple TV+」を開始した。Apple TVアプリケーションで月額600円で利用できる。 「Apple TV+」は、映画やドキュメンタリーなどのオリジナル作品を中心に配信する。オリジナル作品には、「ザ·モーニングショー」、「SEE ~暗闇の世界~」、「フォー·オール·マンカインド」などがある。 |
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