ソフトウェア業界の多重下請け構造については、その問題点が度々IT系雑誌の記事などで話題になる。
しかしながら、以前のブログ記事にも書いたように、このような業界構造はIT業界に限らない。製造業や建設業でも同じような構造がみられる。
今月(2015年10月)、建設業で多重下請け構造の弊害と思われる事件が起きた。
横浜市でマンションが傾斜する - 最大で2.4cmのずれが生じている - という問題である。これは、マンションの基礎工事にあたる杭工事で、杭52本のうち6本が支持地盤に到達していないことが原因だという。さらに、杭工事の施行記録が改ざん(他のデータの一部を転用・加筆)されていた。
この杭工事を担当したのは3次下請けの会社で、現場代理人はその元請け企業(2次下請け企業)だったようだ。多くの報道では下請企業に非難が集中しているが、元請企業にも当然管理責任がある。実際、元請企業は管理という名目で発注金額のなかから何パーセントかのお金を得ているはずだ。
今回のケースのような土の中、あるいは壁の中など、見えない部分(隠ぺい箇所)には手抜き工事などの不正が生じやすい。従って、元請企業の管理者にとっては最も気を遣う部分のはずだ。
隠ぺい箇所については、工事の様子が分かるように写真や記録などのエビデンスを残すのが一般的であり、さらに管理者が立ち会うのも必須だと考えられる。工事の種類によっては、完成後に一部を破壊して内部が工法どおりに正しく施行されているか検査する方法もある。
今回の問題では、不正が行われた要因に工期があったようだ。
工事のやり直しで当初の日程計画を延長すれば、その分機器のレンタル料や、他の事業者への影響(作業の手待ちや作業の組み替え)などで余分なコストが発生する。
この余分なコストの発生と責任を回避するためにデータの改ざんが行われた可能性があるようだ。
多重下請け構造の問題点は、構造の下部にいくほど会社の規模が小さくなり、従って財務基盤も弱い傾向にあることだ。
財務基盤が弱い会社では、損害賠償などの大きなリスクを負担することができない。元請からの圧力もあるだろう。
さらに工事の完了から時間が経過していると、当時の作業員が離職していたり、最悪の場合は会社自体がなくなっていることさえあり得る。多重下請け構造のもとでは元請け企業の責任は重大である。
この種の問題(リスク)はIT業界にも存在する。例えば進捗が遅れている場合、テストのエビデンス取得や、テスト前後の品質レビューなどで手抜きをすることなどが起こり得る。
しかし、このような手抜きが発覚した場合には、全てのテストをやり直すという事態に発展することも考えられる。当然のことながら進捗はますます遅れてしまうし、余計なコストもかかる。
急がば回れで、基本どおりに物事を進めた方が結果として全体のコストは安くつく場合が多い。
IT業界では財務基盤が弱い会社は、リスクを回避するために、請負ではなく派遣で業務を行う傾向がみられる。本年(2015年)9月の労働者派遣法の改正では、「派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇の確保」が強化されたが、同じような職務であっても、派遣と請負では会社が背負う責任の重さが異なるから、担当者の賃金にも必然差が生じると考えられる。均等待遇はそれほど単純な問題ではないといえる。
不具合の発見は後工程になるほど修復にかかる費用が大きくなる。ソフトウェア開発ではよく言われることであるが、これは建設業でも同じだろう。
マンションが傾斜する問題では、全4棟の建て替えを前提条件とし、転出を希望する住民には新築価格で買い取る条件で調整が進められるようだ。完成後の瑕疵(情報システムで言えば本番移行後の瑕疵)は高い代償をともなうものだと、あらためて感じさせられる事件である。
なお、その後の報道によると、杭工事の施行記録改ざん問題は、他の物件でも行われていたことが判明しつつあり、業界全体に波及する様相である。検査や監査の観点から施工管理の見直しを迫られそうだ。
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