IT系の雑誌記事(Web上の記事を含む)には新しいジャーゴン(造語)が次々とあらわれる。そのうちの幾つかは忘れ去られ、そして幾つかは生き残って新しいITのトレンドを作り出していく。
しかしながら、ここで少々驚く(またはあきれる)ことがある。それは、これらの造語が一般の新聞紙やテレビ放送などで取り上げられるまでの、その早さである。
まだ言葉の定義や概念がはっきりしないうちからどんどん使われる。特に近年はこの傾向が顕著になっているように感じる。
最近話題の造語/流行語のひとつに「フィンテック(FinTech)」がある。
日経新聞デジタルによれば、フィンテックとは金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた米国発の造語、である。
「金融とIT(情報技術)を融合した技術革新を指す。スマートフォン(スマホ)関連やビッグデータ分析などに秀でたベンチャー企業の技術を生かし便利な金融サービスを創出する」などの解説が出ている。
これらの記事から、フィンテックとは金融分野でIT技術を活用した新しいサービス(イノベーション)を創出することだと考えられるが、正直なところ具体的なサービスイメージなどはいまひとつはっきりしない。
この言葉が日本に登場したのは今年(2015年)の春先だと思われる。そして、日経コンピュータなどの専門誌でフィンテックという言葉が頻繁に使われるようになったのは今年の秋くらいである。
日経コンピュータの2015年9月17日号には、米ペイパル・ホールディングス 社長兼CEOのインタビュー記事が掲載されていた。ペイパルは主にオンラインストア(ネットショップ)で決済サービスを提供している企業である。今後は、オンラインショップだけでなく、実店舗を含めたオムニチャネル戦略でデジタル決済サービスを展開していくようだ。
ペイパルのCEOは、「今後の3~5年間に金融市場で起きる変革は、過去の20年間よりもずっと大きいものだと見ている。お金はデジタル化され、商業活動もまた変わっていくだろう」と述べている。
さらにフィンテックについて、「フィンテックは自然なトレンドだと言えるだろう。お金がデジタル化し、モバイル化していく中で、金融業そのものがフィンテックに変わってきているといってもいい」と述べている。
このインタビュー記事からは、ある金融サービスがフィンテックと呼ばれるための鍵(ないしは条件)は、お金のデジタル化とモバイル化にあるようだ。(・・・が、正確なところは良く分からない)
最近ではこのフィンテックという言葉が一般の新聞紙面でも見られるようになった。
例えば、2015年11月1日の朝日新聞が1面でフィンテックを取り上げている。この記事で取り上げられているのは、主にBtoC分野(企業と消費者間、店舗と消費者間)でのデジタル決済関連のサービスである。これは先のペイパルが目指しているビジネス領域と同じだ。但し、この記事からデジタル決済以外の具体的なサービスイメージはあまり湧いてこない。(デジタル決済を指認証で行なうのか、スマホなどで行うのか、手段の違いはあるものの決済という本質は変わらない)
お金のデジタル化は今に始まった話ではない。
オンラインバンキングやインターネットネットバンキングと呼ばれる金融サービスは15年以上前からある。インターネットバンキングの歴史をみると、1996年から2001年にかけて、いわゆる金融ビッグバンと呼ばれる大規模な金融改革が行われた頃までさかのぼるようだ。日本銀行と金融機関の決済を行う日銀ネットは1988年から稼働している。
また、証券取引では、発注・約定から照合、清算、決済までの一連のプロセスを、標準化されたメッセージフォーマットで、システム間を自動的に連動させるSTP(Straight Through Processing)化が進められている。
このように、BtoB(企業間)の分野ではお金のデジタル化とデジタル決済は今に始まった話ではないのである。
そうするとフィンテックであるための一つの条件はBtoC分野ということだろうか?
しかし、コンビニの支払いや自販機の支払いにSuicaなどのプリペイド式カードが使われ始めたのは2004年あたりである。日本における電子マネーの登場は2001年とある。
目を海外に向ければ、電子マネーの1つであるモンデックス(Mondex)の実証実験が行われたのは1995年である。この頃はアメリカなどでも電子マネーやマイクロペイメントの実証実験が行われていたと記憶する。しかしこれらの実験はいささか時期尚早だったようだ。
このように見てくると、フィンテックと呼ばれるものが、何を対象にどこまでの領域をカバーするサービスなのか、分かったようで分からないのである。
新しいサービスだから、これから姿を現すのである・・・と言われればそれまでなのだが。
「分かったようで分からない」というところが造語と呼ばれる所以なのだろうか? これは既に市民権を得ているビックデータでも同様である。ビックデータと呼ばれるための条件(データ量やトランザクション量など)がはっきりしないまま、言葉だけが盛んに使われているように見える。
日経ビジネスによれば今後フィンテックと同じことが他の業界でも起こるらしい。
医療・ヘルスケア領域ではメドテック(MedTech)が、教育分野ではエドテック(EdTech)が期待されているという。
「分かったようで分からない」造語が増殖をはじめているようだ。
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