水上勉「古河力作の生涯」

古河力作は、明治44年(1911)の大逆事件(幸徳事件)で死刑に処せられた12名のうちの一人である。
大逆事件では26名が検挙されたが、社会主義者、無政府主義者を徹底的に弾圧する目的で、政府主導のでっち上げが数多くあったと言われている。
古河力作には大言壮語の性癖があったことから、天皇暗殺計画に対して彼がどこまで本気だったかははなはだ疑わしい、と作者は見ている。
作者の水上勉が古河力作の生涯を書こうと思った動機が、あとがきに記されている。
「私と同じ故郷をもつ古河力作の境遇に私が人並みならぬ哀惜をもってきたこと、福井県の片隅に生まれた身丈尋常でない少年が、草花栽培というのどかな職業に従事していながら、なぜに大逆事件の死刑囚の仲間に入ってしまったのか、その不思議ともいえる運命を私なりに探り当ててみたかったのである。」 

水上勉は、「力作が殺された日から約63年の歳月が経った。世の中が変わったように富久町も変わった」と書いているから、1974年ごろに東京監獄があった新宿区富久町界隈を訪れている。
市谷台町現在(2018年)のこの界隈は、それからさらに44年の歳月が経過しているわけだから、その景色は様変わりしたと言っていいだろう。

市ヶ谷富久町現在の富久町や市谷台町の辺りは新しいビルが立ち並ぶ都会的な景色である。しかし、一歩裏道に入ると路地が入り組んでいて民家が密集している。初めて訪れた人は道に迷うだろう。台町はその名のとおり高台になっていて東側(安養寺のあるあたり)が崖になっている。
 


市ヶ谷富久町周辺マップ水上勉が訪れたた富久町と市谷台町の辺りを歩いた。
余丁町児童遊園、
絞首台があったあたりだと思われる「刑死者慰霊塔」、
青峰観音、
安養寺。

余丁町児童遊園

「天皇の名において処刑された古河力作の絞首台は、いま私の佇んでいる遊園地の入り口の小径にあったと言われている」

「そこが、東京監獄のあった場所である。いまは富久町児童遊園になっている。家のぎっしり詰まった町の中に小さな公園はあった。」
これは現在の「余丁町児童遊園」のことだと思われる。公園の裏手に「刑死者慰霊塔」が建っている。
「古河力作の収容されていた東京監獄は、今の市ヶ谷富久町にあって、・・・隣に市ヶ谷監獄署がある。市ヶ谷監獄には既決囚が収容され、東京監獄には未決囚を収容していたもので、のち、市ヶ谷監獄は中野へ越した。」 

明治時代、東京監獄と市ヶ谷監獄は隣接して在ったようだ。


刑死者慰霊塔 

「力作が収容されていた明治43年頃は監獄の跡は原っぱになっていて、一つだけ絞首台が不気味に残っていたということである。
どういうわけか、未決囚を収容する東京監獄にも絞首台はあった。」
ぞっとする風景描写である。
写真の「刑死者慰霊塔」の建つあたりに絞首台があったということだろうか。
身替り観音台町交差点付近にある青峰観音。
現地案内板によると、かつて「身替観音」、「厄除け観音」と呼ばれ台町住民に親しまれてきた観音像があったが、太平洋戦争中に献納(供出)された。昭和20年4月の空襲で台町は焼土と化した。
現在の観音像は昭和29年に建立されたものである。 

水上勉は「下の通りへ出て、昔、「首切り観音」といわれた、観音様がまつられてある八百屋さんの裏まで行った。なんでも、この八百屋は、旧市ヶ谷監獄の刑場跡にある由で、戦後夜な夜な幽霊が出たそうだ。」と述懐している。

 


古河力作の遺骨は市ヶ谷富久町12番地、臨済宗妙心寺派の端光山道林寺にあずけられた。
ところがこのお寺は移転してしまったので、遺骨と過去帳の行方は分からなくなってしまう。
「富久町にあった道林寺は、町田市相原町597番地の乃木山道林寺へ移り、市ヶ谷の寺統と過去帳が受け継がれていることが分かった。しかし、力作の遺骨のことは、不明のままに終わった。」

 


安養寺道林寺は、写真にある安養寺の近くにあったのではないかと思われる(・・・が、正確なことは分からない)。
写真の左手側は安養寺の墓地である。

 


本書には、管野スガの処刑に立ち会った看守の証言が載っている。これも衝撃的な内容である。
「絞首台の方へ、何のおそれもためらいもなく、さっさと歩かれるのを見て度肝を抜かれました。台の下で私たちは編笠を脱がせて、目隠しをして、黒い頭巾をかぶせます。この時にも、たいていの死刑囚は泣いたりわめいたりして手が付けられないのですけれど、管野さんは、泰然として私のするままに立っておられました。
・・・そうして、管野さんの首に桎梏の綱の輪をはめ、足を縛りました。これが終わって看守は典獄さんの合図を待つのですが、この時、管野さんは急に大きなはっきりとした声で、「われ主義のため死す。ばんざい」と叫ばれたのです。
私はその一瞬、管野さんの足元の羽目板が落ちて、管野さんの躯が同時に麻縄につるされて落ちるのを見ました。
これが最後であります。何というか、男勝りというか、元気なこんな死刑囚を私は見たことがありません。」

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