2013年 11月

(1)調査から見える傾向

 

先ず、多くのITエンジニアは、自らのキャリアパスをどのように考えているのか?
日経コンピュータ11月14日号に、NPO法人「ITスキル研究フォーラム(iSRF)」が実施した調査結果が掲載されている。
細かな数字や詳細は記事を見て頂くしかないが、結論をおおまかに記載するならば、多くのITエンジニアは将来の職種として、プロジェクトマネジメントなどの上流工程を指向している、といえる。
但し、これは職種を変えるとしたら、という前提がある場合の調査結果である。
即ち、例えばアプリケーションスペシャリストであれば、業務知識の深さや業務分析などのスキルレベルを上げる、(専門性を高める)という方向でキャリアパスを考えている人もいるかと思われる。

よって、多くのITエンジニアが考えているキャリアパスの方向性は、職種を上流工程へと変更する方向と、自らの専門性のレベルを高める方向であるといえる。
これは、ITSSが示すキャリアパスとも、おおかた一致している。

(2)ITSSに関する説明

 

ITエンジニアの職種とスキルの定義は、経済産業省が2002年に公表したITSS(IT Skill Standard:ITスキル標準)が、実質、日本における標準となっている。(ITSSについては、IPA(情報処理推進機構)のサイトを参照されたい)
ITスキル標準のフレームワークは、ITエンジニアの職種とレベルを定義したマトリックスである。横軸には職種が定義されており、縦軸にはレベルが定義されている。また、主なキャリアパスが、このマトリックス上の移動経路として提示されている。

ITSSでは、職種は11種類に分類されている。マーケティング、セールス、コンサルタント、ITアーキテクト、プロジェクトマネジメント、ITスペシャリスト、アプリケーションスペシャリスト、ソフトウェアデベロップメント、カスタマサービス、ITサービスマネジメント、エデュケーションである。
さらに11種類の職種の中がさらに細分化されている。
例えば、ITスペシャリストの場合は、プラットフォーム、ネットワーク、データベース、アプリケーション共通基盤、システム管理、セキュリティに細分化されている。
そして、レベルについては、レベル1(その職種に必要とされる最低限の知識を有するレベル)からレベル7(プロフェッショナルとしての経験と実績を有し、世界で通用するレベル)までが定義されている。
ITエンジニアの職種は、昔はプログラマーとSE、あとはせいぜいインフラSE程度の分類しかなかったものが、ITSSでは11の職種と、それをさらに細分化した35の専門分野に広がっている。
このように専門分野が細分化されるようになったのは、IT技術が高度化し、さらにその利用分野が広がったことが要因であるが、個人的には少々細分化し過ぎのきらいもあるように感じる。

ITSSのマトリックス

ITSSのマトリックス(ITスキル標準のフレームワーク)   クリックで拡大します

 

 

 

 

(3)上流指向は正しいのか?

 

キャリアパスの一つの方向性として上流指向があるわけだが、果たしてこれが正しいのかを考えてみたい。
それには、なぜ多くのITエンジニアが上流指向になるのかを考える必要がある。

①上流指向は日本的雇用環境が形成したのだろうか?

 

多くのITエンジニアが上流指向になる背景には、日本的雇用環境が影響している可能性がある。
良く言われるように、日本の雇用形態は、終身雇用を前提とした年功序列がまだ多く残っている。
成果主義や能力主義などの米国流の雇用形態がもてはやされ、幾つかの企業で導入された時期があったが、結果的に個人主義を助長するなどの弊害が出て、日本では主流にならなかった。能力主義や成果主義を導入した企業も、年功序列との折衷型に舵をきったように見える。
最近の傾向を見ても、日本の就業希望者の多くは、安定した雇用環境と協調性を望んでいる。
年功序列型の企業の場合、経験を積んで管理職、上級管理職に、さらに一部の人は役員へと昇るのが一般的なキャリアパスである。ソフトハウスの場合であれば、初級レベルのプログラマーから始まり、経験を積んで上級プログラマーになり、やがてはチームリーダーや部門の管理職になる。
SI企業の技術職の場合は、初級レベルのSE(ITSSの用語を当てはめるならば、アプリケーションスペシャリストやITスペシャリストなど)から始まり、経験を積んでレベルを上げていき、プロジェクトマネージャーや部門の管理職になる、というのが一般的なキャリアパスであろう。
ここで賃金を考慮にいれると、経験年数と収入が比例する年功序列型の企業では、プログラマーよりもSEの方が、SEよりもプロジェクトマネージャーや管理職の方が、収入は高くなる。
日本の雇用形態のもとでは、プログラマー、SE、プロジェクトマネージャーの順に収入が高くなるという順序付けが定着してしまった。そしてこの収入の順序付けが職種の順序付けにもなったと考えられる。

正確に言うならば、この順序付けを形成したもう一つの要因は、元請企業と下請企業の多層の階層構造である。
元請企業は管理的な業務、下請企業は作業的要素が大きい業務、という具合に職種の順序付けが形成された。

さて、この順序付けは本当に正しいのだろうか?
プログラマーやSE、プロジェクトマネージャーというのは役割の違いであって、そこに収入や職種の優劣があるのは、少々おかしな気もする。
これはITSSの職種でも同じことである。職種の違いは役割の違いであって、そこに職種の優劣や順序付けは本来ない。
本来ないはずであり、ITSSの説明をよく読むとそのことが強調されているのだが、現実には優劣は存在している。
優劣や順序付けはないと説明しているITSSであるが、そのマトリックスをよく見ると、実は上流指向であり、優劣を付けている節がある。

②実はITSSも上流指向で、職種に優劣の順序付けをしているのだろうか?

 

ITSSのマトリックス(ITスキル標準のフレームワーク)を良く見ると、職種や専門分野によって、レベル7やレベル6が歯抜けのように無いところがある。正確には、レベル3やレベル4の部分でも歯抜けがあるのだが、ここでは上位のレベルに着目する。

具体例を挙げると、ITスペシャリストやアプリケーションスペシャリストにはレベル7は存在しない。
従って、これらの職種でレベル6の人が、さらにその先のキャリアパスを探すならば、ITアーキテクトかプロジェクトマネジメント、あるいはコンサルタントを指向することになる。
これは、暗黙のうちに職種に優劣や順序付けが行われているということではないのだろうか?
本当にアプリケーションスペシャリストやITスペシャリストにはレベル7はあり得ないのだろうか?

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