2015年 1月 17日

2014年12月25日、半導体レーザーダイオードで特許権を侵害されたとして、日亜化学工業が三洋電機に対して生産の差し止めなどを求めた訴訟で、東京地裁は特許権侵害を認め、生産の差し止めと製品の廃棄などを命じる判決を言い渡した。
しかし、訴えられた三洋電機は2009年にパナソニックに買収され消滅している(三洋電機の製品保守などの目的で登記上の法人格は暫く存続するようだが、2015年4月に三洋電機の残りの社員全員がパナソニックに転籍することで、パナソニックへの統合が完了する)

大西康之著「会社が消えた日」は、副題に「三洋電機10万人のそれから」とあるように、三洋電機という大企業が、債務超過からパナソニックに買収され消滅するまでの経緯と、経営者・ステークホルダー達の人間模様、そして三洋電機を去った人達の新しい人生を追ったノンフィクションである。

三洋電機の元CEOである野中ともよは、三洋電機が消滅するさまをタイタニックの沈没になぞらえている。
「氷山に衝突したタイタニック号は、最初の沈み方がゆっくりだったので、乗員は危機的状況にあると知らずにのんびりデッキチェアを並べていた。だが次の瞬間、船は真ん中で2つに折れ、ものすごいスピードで海底に消えた。逃げ遅れた乗員、乗客とともに」
三洋電機の経営危機が表面化したのは2004年の新潟中越地震で半導体工場が被災してからだが、すでにその前から兆候はあった。そして野中ともよがCEOに着任した時には既に危機的な状況にあった。粉飾まがいの財務諸表、不自然に積み上がった在庫、膨れ上がった有利子負債、自己資本比率はわずか5%であったという。
そして金融3社が三洋電機に出資して経営再建に乗り出す。パナソニックと重複する事業はリストラしてパナソニックに統合、三洋電機独自技術(得意分野)はパナソニック取り込む、不採算事業は売却するというのが大きな流れである。
三洋電機の社員は、三洋電機独自技術を持つ事業は、日本ビクターのようにブランドを存続させ、自主的に事業を続けられると甘い期待を抱いていた。しかし、それは裏切られる。
「パナソニックは2009年12月に三洋電機に出資してからしばらく、車載電池、小型2次電池、光ピックアップという三洋電機の得意分野の事業部長には三洋電機出身者起用してきた。しかし、2013年春を境にパナソニックはこうした枢要なポストから三洋電機出身者を外し、パナソニックの人間に入れ替え始めた」そして「2012年度までにサンヨー・ブランドは原則廃止する」と発表された。
三洋電機は解体され、その一部がパナソニックに吸収された。
「パナソニックの子会社になった後も三洋電機のリストラは続いた。パナソニックが不要と判断した事業を次々に売っていったからだ」
「海外を含め約10万人いた三洋電機の社員はついに1万人を割り込んだ」
「リストラの嵐をくぐり抜けパナソニックグループに残った約9,000人も、2013年末時点では親会社のパナソニックへの出向者と扱われている。同じ仕事をしていても給料はパナソニック社員より2割ほど安い。」
冷淡に、合理的にリストラが進められて行く様子が克明に描かれている。日本の労働者は安定志向で、正社員として終身雇用を望む人が多いと言われるが、現実には大企業であっても安定雇用が保障されているわけではない。

本書の後半では、三洋電機を去った元従業員の、その後の人生、新しいステージでの活躍が活写されている。ハイアールに行った人、京セラに行った人、西松屋に行った人、故郷に戻って起業した人、など。
この中でベビー服のチェーン店を展開する西松屋に、電機メーカーのエンジニアが再就職するというのがユニークである。西松屋チェーンの社長は、コンサルタントから「プライベート・ブランドをやるんだったら、生産技術がわかるエンジニアが必要だ」とアドバイスされて、三洋電機に限らず電機メーカーのエンジニアを積極的に採用している。

著者はエピローグで「ダウンサイジング・オブ・ジャパン」と記している。
景気が回復しつつあると言われているが、リーマンショック前の2007年当時とと比べると、多くの企業で売上高が減っている。ダウンサイジング・オブ・ジャパンとは、日本の経済が縮小している様を指している。三洋電機が倒産した後でも、日本には大手と呼ばれる電機メーカーがまだ9社もある。国内需要が縮小していく中でのパイの奪い合いと、海外に打って出れば外国企業との厳しい競争が待ち受けている。このような状況を考えると日本の電機メーカーの数は多過ぎる。
もっと早い時期に業界再編を進めて国内のチャンピオン企業を作り、世界で戦える態勢を作ることが必要であったと著者は指摘している。韓国では、「ビッグディール」と称して国内産業を半ば強制的に再編した。日本の電機メーカーは、世界をあっと言わせる画期的な製品を開発しない限り、あと数年で5~6社になるだろう。著者はそう予想している。
すなわち、三洋電機は日本の電機メーカーが淘汰される、その始まりに過ぎないという見解である。

アベノミクスに沸く今の日本は、1990年代のアメリカに酷似しているそうである。企業業績は回復しているが、その要因の多くは、固定費削減や円安によるものであり、新しい財やサービスを生み出して健全に売上高を伸ばしている企業は少ない。
「雇用や国際競争力を伴わない景気回復は泡沫の夢である」日本は今まさに成長の限界に直面しているといえる。

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