2016年 2月

E・F・シューマッハー著「スモール・イズ・ビューティフル」は、化石燃料資源の枯渇が近いこと、それに起因して石油危機が到来すると予測したことで有名である。
本書の主張の根幹をなすのは、近代の経済学や科学における諸問題の分析と、問題に対する対応策の提言である。著者は経済学や科学の問題点として、物質至上主義あるいは唯物主義(タダモノ主義と解すべきか)と巨大技術信仰をあげ、その根本原因は人間の貪欲と嫉妬心にあると説いている。スモール・イズ・ビューティフル

本書の中でシューマッハーは「仏教経済学」という考え方を提唱している。この思想の背景には、シューマッハーがマハトマ・ガンディーの思想に傾倒した時期があることが関係しているようだ。
しかし、ガンディーはインド古来の宗教であるヒンドゥー教やジャイナ教、そしてキリスト教にも理解を示していたようであるから、ガンディー思想を短絡的に仏教と結びつけるのはいささか乱暴だろう。
そもそもインドにおいては、仏教はヒンドゥー教という一種の宗教文化に吸収されたというのが定説のようである。従って、仏教経済学の仏教とは、仏教やその他のインド思想、もう少し広くとらえて東洋思想の価値観を取り入れた、というほどの意味だと思う。
良く知られているようにガンディーは非暴力(アヒンサー)を提唱した。多くの人は、非暴力と経済学に如何なる関係があるのか疑問に思うに違いない。
経済学では全ての財は金銭的な価値で測られる。例えば、工業生産に不可欠な電力エネルギーは、水力や火力(石炭、石油)、あるいは原子力などから得られるが、どのエネルギー資源が有利かは金銭的な価値、すなわちコストで決まる。コストが一番安いのが石油であれば火力発電が選ばれる、という具合である。
しかし、仏教経済学では、エネルギーを選択する時の尺度ないしは価値観はコストだけではないと考える。より重要な尺度は、再生可能か再生不可能かという尺度である。
再生不能な燃料資源は、地域的分布が偏っており、総量(埋蔵量)にも限界がある。それをどんどん掘り出していくのは自然に対する暴力行為だといえる。
非暴力とは、このような自然環境に対する暴力の排除を指している。

経済学は科学的アプローチ(実在する対象を客観的に捉え、そこから普遍的な法則を導く方法)を採るが、経済活動には人間の意思が介在するから、物理法則のような普遍性があるかはいささか疑問である。
例えば、次に皆既日食が出現する日は予測できても、景気が減速する時期を予測することは難しい。目先の景気動向を予測するのが困難な理由は、予測に関わるパラメーターが多いという理由よりも、そこに人間の意思や心理が深く関わっているからだと考えられる。
経済学が人間の心理を全く考慮していないというわけではない。しかし、経済学で扱っている人間行動(大衆心理)はほとんどが画一的で硬直化している。
仏教経済学は、従来の経済学に不足していた新たな価値観や尺度、すなわち仏教的、あるいは東洋的な価値観と、それに基づく行動規範を導入したと見ることができる。
金銭的価値に替わる価値は、小欲知足と非暴力、簡素などである。これらの価値は金銭のように定量化することが難しいから、見方によっては情緒的、精神主義にも見える。

シューマッハーの指摘は現在の日本にもあてはまりそうだ。
政府や日銀は消費を増やすことに躍起になっている。これは、消費意欲が旺盛で消費者物価が上昇することが「豊かである」という前提に立っている。
仏教経済学から見ればこれは非常に不合理だという。「消費は人間が幸福を得る一手段にすぎず、理想は最小限の消費で最大限の幸福を得ることである」と説いている。
近年は日本でも、消費が豊かさの尺度とは限らない、と考える人が増えているように感じる。これは大量にモノを製造して、大量に消費する時代に対する反動であり、反立であるに違いない。断捨離や捨てる技術がもてはやされるのもその現われであろう。
一方、今の日本経済を支えている柱の一つにインバウンド需要がある。爆買いという言葉も2014年ごろから盛んに使われるようになった。
インバウンド需要の中心は中国をはじめ、近年経済成長が著しい国の訪日客である。このような経済成長が著しい国では、かつての日本がそうであったように、自然環境の破壊という暴力も猛烈な勢いで進んでいる。
いまや温暖化対策は地球規模の待ったなしの課題にまでなっている。
まさに成長には限界があることを多くの人が感じているに違いない。この対応策に仏教経済学が適しているのか否か、私には判断がつかないが、成長を前提とした経済政策に対する反立が求められていることは確かだろう。
総務省が2016年2月26日に公表した2015年国勢調査の速報値によると、日本の総人口は1920年の調査開始以来初めて減少に転じた。今後日本は人口減少と高齢化が進む。このことからも、成長を前提としない経済政策が必要とされるのではないか。

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