2020年 2月

「2030年の世界地図帳」(落合陽一:著、SBクリエイティブ)は、サブタイトルに「あたらしい経済とSDGs、未来への展望」とあるように、10年後の2030年の世界を予測する(あるいは築く)うえで重要なテーマ(SDGsに関連したテーマ)を提示している。2030年の世界地図帳
2030年の日本の人口動態は、国民の約1/3が65歳以上の高齢者が占め、生産年齢人口(15歳~64歳)は6割以下にまで減少する。
SDGsは2010年の国連サミットで採択され、2030年の達成を目標としている。SDGsには17の目標と、この目標をブレークダウンした169のターゲットが設定されている。
17の目標には、絶対的貧困の撲滅や、クリーンエネルギーの達成、教育機会の提供、気候変動への対応、安全な水とトイレの普及、・・・などがある。
本書にはSDGsに関連したグローバルで広範な話題が盛り込まれており、私たち(IT関連技術者)にとって馴染みのあるテーマのほか、普段あまり意識しない、あるいは目にすることが少ない話題も数多くある。 

まず、IT関連技術者にとって馴染みがある(あるいは関心がある)のは5つの破壊的テクノロジーであろう。著者は破壊的テクノロジーとして以下の5つをあげている。
①AIなど機械学習関連技術
②5G
③自律走行(自動運転)
④量子コンピューティング
⑤ブロックチェーン

ここにあがっていない技術で、今後の成長が期待される分野は、「ドローン」、「VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)」あたりだろうか?
本書には詳細な説明がないが、5つの技術分野について(私が調べた範囲で)簡単に補足してみる。
機械学習は、音声認識や画像認識、自然言語処理がホットな話題になっているようだ。特に画像認識の一分野である顔認識は、人間がマスクを着用していても認識できるほどの精度に到達していると聞いたことがある。
また、GDPR(EU一般データ保護規則)などとの関連からXAI(説明可能なAI)も今後研究・開発が進むと考えられる。
IOTとの関連では、エッジデバイスにAIを組み込む「エッジAI」が重要になるだろう。
日本ではAI人材(研究者やビジネス分野への応用技術者)の不足が課題となっている。(個人的にはAI技術者の不足が騒がれ過ぎではないかと思うのだが)

量子コンピュータは、昨年(2019年)グーグルが量子超越性を実証したことで話題になったが、これも少し騒ぎ過ぎだとの指摘(反論)が出ている。
量子コンピュータは、量子ゲート方式とイジングマシン方式の二つに大別される。直近では、ノイズの影響を排除しない方式であるNISQコンピュータが注目されており、量子化学計算への利用が期待されている。現在のコンピュータ(古典コンピュータ、チューリングマシン)よりも優れた汎用量子コンピュータの実現には今後10年~20年の歳月を要する、とする見方が大勢だ。

ブロックチェーン技術は、現在は金融分野で注目されているが、物流におけるトレーサビリティをこの技術で実現するなど、非金融分野への適用も検討されている。
ブロックチェーンはもともと仮想通貨(仮装通貨?、デジタル通貨)で使われていた技術である。(仮想通貨という呼称は、法改正で「暗号資産」に変わった)
デジタル通貨は、昨年(2019年)Facebookが「リブラ」を発行する構想を発表したことで話題になり、各国の中央銀行でも研究や実験が始まろうとしている。中国では「デジタル人民元」、スウェーデンでは「eクローナ」を発行する計画が進んでいるようだ。
ブロックチェーンの最大の課題はスケーラビリティ(トランザクション性能)である。中央銀行が口座を集中管理する方式を採用する場合は、このスケーラビリティが問題になると思われる。
この課題を克服するには、3年~5年かかるだろうと言われている。

デジタル通貨(電子マネーなどを含む)というと先進国での出来事のように考えてしまうが、本書によれば、ケニアでは電子マネー「Mペサ」が広く使われている。これは、リバースイノベーション(製品開発を新興国で行い、最初から現地のニーズに合致した製品を提供し、後から先進国に適用していく手法)の文脈で紹介されている。

本書で紹介されているIT関連以外の技術には、ロボット手術、iPS細胞を用いた再生医療技術、遺伝病治療のためのゲノム編集技術などがある。
クリーンエネルギーあるいは気候変動対策の関連では、次世代太陽電池、マイクロ水力発電、水素発電などが紹介されている。
(本書では紹介されていないが)洋上風力発電も注目すべき分野といえるだろう。
日本では、洋上発電の最大規模となる計画が秋田県で進んでいる。これが実現すると、最大出力は約200万キロワット、原発2基分に相当するという。

絶対的貧困はサブサハラ(サハラ砂漠以南)にその多くが集中している。本書にはこの背景となるアフリカの歴史が書かれている。著者は、サブサハラは貧困問題を抱えながらも「人口の71%を30歳未満が占める若者中心の世界であり、その柔軟な知性は先進国では思いもよらないテクノロジーや公的サービスを生み出す可能性を秘めている」と評価している。

著者はSDGsについて次のような評価をしている。
「SDGs成立の背景が重要なのは、今後世界の国家と企業はヨーロッパ的な価値観のもと、その活動をヨーロッパ諸国に有利なシナリオのもとに規制されると考えられることだ」
「SDGsの根底にはヨーロッパ特有の形而上的な思想が横たわっている」
ヨーロッパのこのような動きに対して、アメリカは規制ではなくイノベーションで環境問題を解決しようと考えているようだ。ヨーロッパとアメリカのエネルギー政策の違いが分かり易く解説されている。

なお、本書にはeラーニングやデジタル教材の利点が書かれているが、これらを学校教育に導入する際は、デメリットも考慮する必要があるだろう。例えば、新井紀子「AIに負けない子どもを育てる」には、デジタル教材(特に穴埋め式問題)が弊害となるケースが指摘されている。

 

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