落合陽一「2030年の世界地図帳」
「2030年の世界地図帳」(落合陽一:著、SBクリエイティブ)は、サブタイトルに「あたらしい経済とSDGs、未来への展望」とあるように、10年後の2030年の世界を予測する(あるいは築く)うえで重要なテーマ(SDGsに関連したテーマ)を提示している。 2030年の日本の人口動態は、国民の約1/3が65歳以上の高齢者が占め、生産年齢人口(15歳~64歳)は6割以下にまで減少する。 SDGsは2010年の国連サミットで採択され、2030年の達成を目標としている。SDGsには17の目標と、この目標をブレークダウンした169のターゲットが設定されている。 17の目標には、絶対的貧困の撲滅や、クリーンエネルギーの達成、教育機会の提供、気候変動への対応、安全な水とトイレの普及、・・・などがある。 本書にはSDGsに関連したグローバルで広範な話題が盛り込まれており、私たち(IT関連技術者)にとって馴染みのあるテーマのほか、普段あまり意識しない、あるいは目にすることが少ない話題も数多くある。まず、IT関連技術者にとって馴染みがある(あるいは関心がある)のは5つの破壊的テクノロジーであろう。著者は破壊的テクノロジーとして以下の5つをあげている。 ①AIなど機械学習関連技術 ②5G ③自律走行(自動運転) ④量子コンピューティング ⑤ブロックチェーンここにあがっていない技術で、今後の成長が期待される分野は、「ドローン」、「VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)」あたりだろうか? 本書には詳細な説明がないが、5つの技術分野について(私が調べた範囲で)簡単に補足してみる。 機械学習は、音声認識や画像認識、自然言語処理がホットな話題になっているようだ。特に画像認識の一分野である顔認識は、人間がマスクを着用していても認識できるほどの精度に到達していると聞いたことがある。 また、GDPR(EU一般データ保護規則)などとの関連からXAI(説明可能なAI)も今後研究・開発が進むと考えられる。 IOTとの関連では、エッジデバイスにAIを組み込む「エッジAI」が重要になるだろう。 日本ではAI人材(研究者やビジネス分野への応用技術者)の不足が課題となっている。(個人的にはAI技術者の不足が騒がれ過ぎではないかと思うのだが) 量子コンピュータは、昨年(2019年)グーグルが量子超越性を実証したことで話題になったが、これも少し騒ぎ過ぎだとの指摘(反論)が出ている。 ブロックチェーン技術は、現在は金融分野で注目されているが、物流におけるトレーサビリティをこの技術で実現するなど、非金融分野への適用も検討されている。 デジタル通貨(電子マネーなどを含む)というと先進国での出来事のように考えてしまうが、本書によれば、ケニアでは電子マネー「Mペサ」が広く使われている。これは、リバースイノベーション(製品開発を新興国で行い、最初から現地のニーズに合致した製品を提供し、後から先進国に適用していく手法)の文脈で紹介されている。 本書で紹介されているIT関連以外の技術には、ロボット手術、iPS細胞を用いた再生医療技術、遺伝病治療のためのゲノム編集技術などがある。 絶対的貧困はサブサハラ(サハラ砂漠以南)にその多くが集中している。本書にはこの背景となるアフリカの歴史が書かれている。著者は、サブサハラは貧困問題を抱えながらも「人口の71%を30歳未満が占める若者中心の世界であり、その柔軟な知性は先進国では思いもよらないテクノロジーや公的サービスを生み出す可能性を秘めている」と評価している。 著者はSDGsについて次のような評価をしている。 なお、本書にはeラーニングやデジタル教材の利点が書かれているが、これらを学校教育に導入する際は、デメリットも考慮する必要があるだろう。例えば、新井紀子「AIに負けない子どもを育てる」には、デジタル教材(特に穴埋め式問題)が弊害となるケースが指摘されている。 |
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2020年10月18日 追記: デジタル通貨(仮想通貨、暗号資産)に関して、日本銀行は中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行に向けた実証実験を2021年度に始めるようだ。CBDCに必要な特性として、5点をあげている。①誰でも使えるユニバーサルアクセス ②偽造などをされないセキュリティー ③通信障害や停電時でも使える強靭性 ④支払い完了までに時間が掛からない即時決済性 ⑤様々なプラットフォームで使える相互運用性 詳細は「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」(日本銀行、2020 年 10 月 9 日)にある。なお、システムの実装にブロックチェーン技術が使われるのか否かは良く分からない。 |
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