「非正規労働者の正社員転換などを推進する厚生労働省の『正社員転換・待遇改善実現本部』の第1回会合が9月25日、同省で開かれた。正社員の仕事がないために非正規で働く『不本意非正規』の割合を引き下げるなど具体的な数値目標を盛り込んだ『実現プラン』(5カ年計画)を来年1月までに策定することなどを決めた。」(毎日新聞デジタルより)
平成27年9月30日より改正労働者派遣法が施行された。
派遣事業者にとっての大きな変更点は、特定労働者派遣事業(届出制)が廃止となり、一般労働者派遣事業(許可制)のみになる点であろう。
一般労働者派遣事業は特定労働者派遣事業に比べて条件が格段に厳しい。一般労働者派遣事業は、特定労働者派遣事業のように届出のみでなく、「許可」が必要である。そして、その「許可要件」が厳しく設定されている。
法改正を受けて、特定労働者派遣事業社が一般労働者派遣事業社に変更しようとした際、大きなハードルとなりそうなのが、許可要件のうちの「財産的基礎要件」と、「事業所要件」である。(注)
財産的基礎要件は、
(1)基準資産額(=資産総額-繰延資産額-営業権資産額-負債総額)が、「2,000万円に許可申請事業所数を乗じた額」以上であること。
(2)基準資産額が、負債総額の1/7以上であること。
(3)事業資金として自己名義の現金・預金額が、「1,500万円に許可申請事業所数を乗じた額」以上であること。
である。
(1)は、繰延資産やのれんが無く、1事業所のみの場合、純資産(主に資本金と繰延利益の合計額)が2,000万円以上必要ということである。
さらに、(1)と(2)から自己資本比率は12.5%以上が必要とされ、さらに(3)より、一定レベルの運転資金(キャッシュ)を有することも要求される。
事業所要件では、「事業に使用出来る面積が概ね20㎡以上あること」などが規定されている。
さらにそのほかの要件として、適正な雇用管理態勢が整っていることや、教育訓練態勢の整備、個人情報を適正に管理する態勢、などが規定されている。
特定労働者派遣事業社に対しては経過措置として3年間の猶予期間があるから、その間に一般労働者派遣事業社に変更するか、さもなくば派遣事業から撤退するしかない。
一般労働者派遣事業社に変更するためには、先ほど見てきたように、財務基盤の強化や、経営管理・組織基盤の改善が求められるわけであるから、派遣事業からの撤退を余儀なくされる事業者が少なからず出てくるものと予想される。
この法改正はIT業界にも少なからず影響を及ぼす。
ITベンダーは、SEやプログラマなどの開発要員の調達・リリースを迅速に行う必要があることから、派遣労働者に依存しているところが多い。最近はユーザー企業において内製化の動きが出ているようだが、それでも全ての要員を正規従業員で賄うのは困難であろうし、コスト面でのリスクも大きいと思われる。
必然、派遣労働者に依存する部分が多くなると推測する。
派遣事業社の中には中小の事業者も数多く存在するから、今後、派遣事業社の統廃合が進むだろう。
ここであらためて労働者派遣法の原点に立ち返ると、派遣労働という働き方はあくまでも「臨時的、一時的なもの」である点を押さえておく必要がある。
原則「臨時的、一時的」なものにもかかわらず、それが常態化した結果、賃金格差や待遇格差が進んだ。そしてこの賃金格差は、子供の貧困の一因にも繋がる問題である。
この問題を少しでも解消するためには、派遣労働者を派遣元企業の正規従業員として、派遣先との賃金格差を少しでも是正していくか、あるいは派遣先への正規雇用を促す(紹介予定派遣)などの対策を講じる必要がある。
さて、法律が改正されたことで派遣という働き方は減るのだろうか?
高いスキル・特別なスキルが求められる仕事は、簡単に代替要員が見つからないから、派遣元の正規社員として雇用されたり、派遣先で雇用される比率が増加すると考えられる。
なぜなら、派遣元の正規社員(無期雇用)として雇用されて派遣される場合には、派遣期間の制約(最大3年間)がないからである。
一方、高いスキルを必要としない仕事は、要員の代替が容易なことから、雇用調整としての派遣制度が継続する可能性は高いと考えられる。従って、このような仕事については「不本意非正規」の割合を引き下げる具体策が必要になってくる。
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