ブロックチェーン技術の未解決課題
松尾真一郎ほか著「ブロックチェーン技術の未解決課題」(日経BP社)は、章ごとに筆者が異なるため内容に冗長さを感じる部分もあるが、一通り読み通すことでブロックチェーンに対する世界の期待や標準化動向、および技術面における課題を一望することができる。
ブロックチェーンはビットコインが注目される中で世間一般にも知られるようになった。しかし、ビットコインの革新性はブロックチェーンの仕組み自体にあるのではなく、ビットコインの価値を維持するために協力し合う「エコシステム」にある。 ブロックチェーンの特徴は、信頼できる運営者を置かない「非中央集権的」な「分散システム」である、という点にある。
反面、この特徴を維持しようとするがゆえに多くの課題を抱え込んでしまっている、と言えそうだ。システム管理およびシステム運用管理の面から考えれば中央集権的な仕組み(集中管理)の方が効率が良いことは、容易に想像がつく。 ITの世界では以前から(オープン化やダウンサイジングが叫ばれた頃から)分散システムがあるが、たいていの分散システムはサーバの台数が決まっており、トランザクションを処理する時にはたいてい親玉がいる(親玉がダウンした場合の代役も決まっている)。 一方、ブロックチェーンはP2P(ピア・ツー・ピア)の環境であり特定の親玉はいないようだ。そして接続するコンピュータの台数も可変である。(利用者が増えればシステムに参加するコンピュータも増えていく) さらに、ブロックチェーンで管理する台帳(これはいわゆる大福帳みたいなものだろう)は、複数のコンピュータがコピーを保持する仕様になっているようだ。
このようなブロックチェーンの仕組みには「分散したデータの更新に関する完全性」の問題がある。(データの更新に関する完全性が保証されているわけではない) これはトランザクション、およびデータの完全性・一貫性が求められるシステムにとっては大きな課題である。 そのほかの課題の中で(個人的に)大きな課題だと思われるのが、スケーラビリティの問題とセキュリティの問題、そしてプログラムのバージョン変更の問題である。 スケーラビリティについて、ブロックチェーンの台帳は10分間に1Mバイトのデータが追加される仕様になっている。これは平均すると1秒間に約7トランザクションになるそうだ。 今日のオンライン系のシステムで7TPSというのはかなり貧弱な性能である。 「スケーラビリティと非中央集権性のトレードオフ」の問題は、ブロックチェーンの設計思想も絡む問題で、今も論争が続いていると言う・・・・。 セキュリティの問題の一つは、暗号の危殆化(時間の経過とともに暗号強度が弱まる)に関わるものである。現在のビットコインには、鍵ペアの有効期限の管理や、有効期限を過ぎた鍵ペアを無効化して新しい鍵に置き換える処理が規定されていない。
これは、将来より暗号強度の強い鍵に移行しようとした時にどうするのか、というデータ移行の問題もはらんでいる。
プログラムのバージョン変更は開かれた環境(パブリックブロックチェーン)では非常に悩ましい。
バグ改修はもとより、 ブロックチェーンが未成熟な技術であることを考えれば、機能強化や機能変更は十分考えられる。プログラムのバージョンが混在する環境で台帳データを共有しなければならない。 仮想通貨の問題といえば、最近(2018年1月)コインチェック社(仮想通貨の取引所を運営する会社)から時価580億円相当の仮想通貨NEM(ネム)が流出した事件が記憶に新しい。この事件は、仮想通貨そのものの問題ではなく、取引所のシステムとその運用管理の問題であろう。
現状、仮想通貨の取引において、取引所を信頼せざるを得ない状況(事件を受けて金融庁の指導が強化されてはいるが)も、大きな問題といえるだろう。 さて、ブロックチェーンや仮想通貨の技術的な課題は本書を読めば凡そのことは分かるのだが、そもそも仮想通貨とは一体何なのかという根本的な問題が気になってくる。
法定通貨でない仮想通貨の価値を裏付けるものは何なのか、現実の商取引では掛けでの売買があるわけだが、今のように価値が乱高下するようではリスクが大きすぎて決済手段になりえないのではないだろうか、など、経済学的な切り口で見たときの課題が気になるところではある・・・・。 |
2019年4月追記 |
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません